異界幻想 断章-21
「カイタティルマートにゃ渡せねぇ!あいつには他の奴を紹介してやらないとな!」
人間ではない生き物の視線が自分に這ったのを、ティトーは感じた。
「レグヅィオルシュ……!」
「お前はパイロット候補生だな?なら都合がいい」
豪快な笑い声を残して、レグヅィオルシュの気配は消えた。
「……」
ぎゅ、とティトーはフラウを抱く手に力を込める。
一方のジュリアスは、呆然としていた。
「……俺?」
レグヅィオルシュの言葉が信じられなくて、脳内で何度も反芻する。
「俺……俺が……俺が、パイロットだあっ!!」
それから、一年。
「いいか?」
「いくぞ」
相当な覚悟をもって、二人は緑と紅の宝石を打ち合わせた。
「ぐっ!?」
「うわ……!」
途端に、お互いのあらゆる過去が脳内へ流れ込む。
目を背けたくなるほど醜くどす黒い思いの中に光るのは、純粋に誰かを思う気持ち。
それは親であり、姉や弟であり、フラウであり……一番大きいのは、互いを無二の親友と感じている事だった。
記憶の奔流が収まると、二人はどちらからともなく笑い出す。
「おまっ……なんだよ、こういう風に感じてたのかよ!」
「そっちこそ!まさかこんな風に考えてたとはな!」
互いを思いやる気持ちがほぼ等しい事を思い知り、二人の笑いは止まらない。
「ったく……本当に、お前は最高の相棒だよ」
照れ隠しか、苦笑しながらティトーは言った。
「お前もな。俺にとって、最高の友達だ」
やや頬を赤らめながら、ジュリアスは言う。
「しかし……恥ずかしいな」
気まずそうに視線を逸らしつつ、ティトーは呟いた。
「俺だって恥ずかしいぞ。いくらお互いをそう認めていても、それを思い知らされるとなぁ……」
「うん。恥ずかしい」
気まずく笑いあってから、二人は視線をある方向へやった。
そこではフラウが、膝の上に頬杖をついて二人を待っている。
二人より先に神機パイロットに選ばれたものの……軍人としての心得は何もなかったフラウは先代の引退を一年延期してもらい、つい先日正式に任官されたばかりだった。
三人の中では一番軍歴の長いティトーがリーダー役を預かり、今後は引退するか神機に食われるまで三人で支え合っていく事になる。
「おいで、フラウ」
笑って、ジュリアスは手を差し延べた。
「今度は君だ」
「はい」
微笑んで、フラウは手を重ねる。
「どんな過去だろうと、俺達は受け入れるさ」
もう一方の手を、ティトーが取った。
「だからフラウ、君も俺達を受け入れてくれ」
「ふ……」
かすかに息を吐いて、ジュリアスは目覚めた。
ぼんやりした頭で、昨夜からの事を思い返す。
ラアトの訪問を受け、深花に合わせて恋人同士だと嘘をつき、それを納得させるために深花の体をまさぐって……まさぐりがいき過ぎて体のおさまりがつかない深花を部屋に連れ込み、夜が更けるまで互いを貪り尽くした。
「あー……」
全身に残っているけだるさの正体は、それで説明がついた。
もそもそと、隣で何かが動く。
ほんの少し体を丸めるようにして、深花が眠っていた。
まだ道に不案内な所があるので、結局泊まらせてしまったのだ。
窓の外に目を向ければ、もう朝だ。