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異界幻想
【ファンタジー 官能小説】

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異界幻想 断章-20

 翌日。
 最低限の警備員以外が集まった、水の精霊マイレンクォードの元へ通じる蒼い壁が存在する礼拝の間に姿を現したフラウを見て、ティトーは仰天した。
 昨日までの彼女とは、身に纏うオーラが違う。
 違いすぎて、まるで別人だ。
「おい、ジュリアス……」
 隣にいたジュリアスに声をかけると、親友は意味ありげにニヤリと笑う。
「フラウはもう、木偶人形じゃない。意志と感情を持った、一人の女だ」
「姉ちゃんでさえそこは治せなかったのに、お前は何をどうやったんだ?」
「特別な事は何も。ただ、フラウの感情の封を壊してやっただけだ」
 そんなにやり取りをしている間に、フラウは壁とその脇に控えている神殿長の元へ歩いていった。
「そなたは、水の精霊との面会を求めるか?」
 壁の手前で足を止めたフラウへ、神殿長は重々しく尋ねる。
「はい」
 しっかりと、フラウは頷いた。
「精霊がそなたを認めぬ場合、この奥へは行けぬ。与えられる機会は一度、二度はない」
 その勧告を、彼女は粛々と受け入れる。
「分かりました」
「では、壁に触れるがよい……幸運を祈る」
 フラウは一呼吸置き……手を前に突き出した。
 指が壁に触れ、そこから全体を波紋が広がる。
 ごくり、とティトーの喉が動いた。
「……おぉ……!」
 誰かの声が聞こえた。
 少し離れた場所に陣取らされた二人は、詳細が見えないので苛立ちが募る。
「精霊が……!」
「受け入れた……!」
 そんなざわめきが、さざ波のように広がった。
 二人は顔を見合わせ、手を打ち合わせる。
 後は、フラウ自身にかかっている。


 壁からフラウの姿が浮き上がったかと思うと、地に落ちてくずおれた。
「フラウ!」
 神殿の連中より早く、二人はフラウに駆け寄る。
 ジュリアスはフラウを抱き起こし、何度か揺さぶった。
 うっすらと、フラウは目を開ける。
「……ジュリアス、様」
 ジュリアスを見て、フラウは微笑む。
「私……やりました」
 新たなサフォニーの誕生に、神官達がざわめいた。
「ただ……」
 フラウの声が沈む。
「あちらから、あなたへお話が」
「……マイレンクォードが、俺に用?」
 驚くジュリアスに、フラウは首を振る。
「いえ……マイレンクォード様ではなく、レグヅィオルシュがご用がおありと聞きました」
 フラウの発言に、周囲がどよめいた。
 レグヅィオルシュが遊びに来たのかマイレンクォードが招待したのかは分からないが、今この場に炎の精霊がいるのだ。
 カイタティルマートならまだ分からないでもない、という語調の呟きが聞こえる。
「……分かった。聞こう」
 フラウをティトーに任せると、ジュリアスは立ち上がった。
 壁の向こうにいるはずのマイレンクォードへ、目を向ける。
「紹介にあずかろうか。マイレンクォード」
 遠くから、豪快な笑い声が聞こえた。
「いいなあお前!実にいい!」
 それは、レグヅィオルシュの声だった。
「その気性、実に俺好みだ……よし、決めた!」
「……」
 精霊との直接コンタクトはこれが初めてなのだが、よく言っても非常に鷹揚なバランフォルシュの声に、ジュリアスは二の句がつげない。
「今のパイロットがいなくなったら、お前を指名する!俺が唾つけた!」
 炎の精霊が水の神殿で次期パイロットを指名するという事態に、神官達がざわつく。


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