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夢幻の杜
【ファンタジー 官能小説】

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夢幻の杜-1

透けてる。
私の左手。
…おぉ、右手もじゃん。
掌の向こうに太陽が見えちゃってるよ。
輝く光が眩しいぜ…。
「これは、確実に終わっちゃったわねぇ…私」


時は遡ること…たぶん、四時間くらい前。
私が生まれたこの国の最高権力者である国王兼(?)実の父親ラインフェノルト公が、その王座の前に私を呼んだ。
そして、言うのだ。
「アクアフローネよ、嫁にいきなさい」

――あんのヒゲ親父!
二十日ぶりくらいに顔を合わせた娘に向かって、開口一番『嫁げ』だとぅ!?
そりゃあ、まだ幼さの残る歳のころから早々と、居並ぶ隣国の王家にお嫁入りしたお姉さま方に比べれば、17の歳になっても『趣味は木登り』という、全くもって先行き不安な末娘に頭を悩ませていたのは知ってたわ。
それに…美しい森と湖が自慢のこの国は、けれども四方を囲む大国の経済力には遠く及ばず、それ故、侵略という戦争から民を守るために、大国へ嫁ぎ和平を結ぶ橋渡しという王女の役割も。
「…わかって…いるわよ」でもね。
私だって、たとえ家臣たちから陰で『モンキープリンセス』と言われていようが、やっぱりうら若き花の乙女。
浮かれてばかりはいられない結婚だとしても、それでもまだ見ぬ相手に夢を抱いたり、もしかしたら本当に惹かれ合って恋に落ちたりするんじゃないか…なんて、心のどこかでは微かに期待もしてたのよ。
…それなのに。

「目を覚まさない!?」
宮殿中に響き渡ったんじゃないかと思える程の私の大声に、お父様はめんどくさそうに眉根をひそめる。
「あぁ、まぁ…」
「どうしてっ!?寝たきり95歳の御老人なの?私のお相手は」
「いや、歳はお前より3つ上なんだが…。二年前、謀反を企んだ家臣に、目の前で母君を惨殺されてな。その時に受けた精神的ショックから、それ以来一度も目覚めないんじゃ」
(…おいおい)
「ただ、命に別状はないみたいだから、何かの拍子にひょっこり目を覚ますかもしれん。…そうじゃ、お前の大声なんてうってつけじゃわ」
あら、そうかしら…じゃないっつの!
「お父様は、私がそのような方に嫁ぐことに対して何とも思わないわけ!?いくら不出来な娘とはいえ…ひどいよ…」
「いや、お前の出来、不出来はこの際どうでもいいのじゃ。何故なら、これは今は亡き…」
「――どうでもいいだとぅ!?」
あぁ、そうですか。
猿な娘がどこへ嫁ごうと、お父様にとっては毛ほども気になりゃしないのね!
「こりゃ、アクアフローネよ。話は最後まで…」
「お父様の…ひげちょびんーっっ!!」

血管がブチ切れるかと思うほどの気合いで叫んで、私は王の間を飛び出した。
そのまま、だだっ広い廊下を全速力で走り抜ける。
途中、金髪を振りかざし鬼の形相で突進してくる王女に、おののきながらも一礼してくれる律儀な家臣たちを視界の端に捉えながらも、その足は止まらない。
…だって、結婚だよ。
たとえ愛のない政略婚だとしても、一生に一度の出来事なんだよ。
それなのに…。

気が付けば、痛いくらいに唇を噛みしめていた。
――やがて。
大きなステンドグラスが美しい、王宮の玄関ホールへと繋がる大階段に辿り着いた私。
興奮して煮えくり返った頭と身体に、130段の階段をちまちまと降りるのは耐え難い。
だったら。
「――とりゃあ!」
我ながらナイスアイデア!
手すりを滑り降りようとドレスの裾をまくり上げ、ジャンプ――したところで、私の記憶は…途切れた。



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