三日目-5
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日曜日。
快晴。
良かった、とりあえず天気に邪魔されることはなさそう。
約束の時間までは母親に悟られないように必死に冷静を取り繕った。
前々から早く彼氏を紹介しろとうるさかった。今日がデートだと知られたら家に連れてこいと言うに決まってる。
勿論あたしは紹介したいけど…
『途中で仕事の呼び出しがきたらご両親に失礼だろ?会社が暇になったら挨拶するから』
だそうだ。
一体いつ暇になるんだろう。
毎日毎月彼は忙しいを連呼してる。思えば最後までデートをこなせたのは付き合い始めた頃の数回だけで、最近は全く…
「…大丈夫」
何度も自分に言い聞かせた。
大丈夫、大丈夫。
楽しみって言ってたもん。
そう毎回ドタキャンなんて有り得ない。
シャワーを浴びて歯も磨いて、慣れない浴衣に悪戦苦闘しながらどうにか形にして髪もアップにしていつもより念入りにメイクして…
壁に立て掛けてある大きな鏡の前で右に回ったり左に回ったり、何度も何度も笑う練習をした。
あとは約束の時間まで待つだけ――…
「みーのりさん」
隣の窓から秀君が顔を出していた。
「おぉ、浴衣可愛いじゃん!」
そして屈託のない笑顔で聞き慣れない言葉をあたしに浴びせる。
「…ありがとう」
「素直な感想です」
「…」
年上の女として余裕のあるとこを見せたくて何か言い返したかったけど、言葉が出てこなかった。
ブーブーブーブー
「…っ」
ずっと沈黙してた携帯が低く唸り出した。
彼からだ!
慌てて通話ボタンを押した。
「もしもし!?」
『あ、俺』
「うん。あ、もう着いた?」
『いや』
「あたし準備万端だよ!今から出る――…」
『ごめん』
「…え?」
『ごめん、今日も…』
「…」
あぁ、また。
耳元で聞こえる大好きな声がいつもと同じ理由を喋る。
急に仕事が入ったから。
俺じゃなきゃ駄目だから。
みのりも社会人なんだから分かるだろ?
そんな言い方されたら、分かったって言うしかないじゃん。
わがままな女って思われたくないもん。
理解のある彼女でいたいもん。
困らせたくないもん…