ラインハット編 その五 ドーナッツ-9
「へぇ……グランバニアか……。僕の父さんもそこの人だったのかな……」
そう言いながらお茶請けのスコーンを一口。それが懐かしい味であったことにさらに驚きを隠せない。
「これ、サンチョが作るスコーンに味がすっごい似てる……」
「……リョカ殿は……」
その言葉に逆にオットーが驚く番だった。だが、アルベルトはそれに気付き、ひとさし指を立てる。目ざといオットーはそれを横目に、いつもの鉄面皮を被る。
「で、貴方は何時決起するのかしら? 十分に時間は経ったと思うけど?」
そういってスコーンを一口。最近のエマはアルベルトの作戦を物語の続きを尋ねるかのように促す。
「うむ。俺が立つというよりは、むしろあちらが仕掛けてくるだろう。十分に餌は蒔いてあるからな……」
「餌?」
「ああ、奴らの目的がラインハットを乗っ取るつもりなら、英雄は邪魔でしかないからな……」
??――??
ラインハット城の一段と豪奢な部屋にて、男が傅いていた。
天蓋つきのベッドに横になり、美しい裸の美女に背中をマッサージさせる者こそ、ラインハット国の影の支配者、アルミナであった。
「して、その噂は本当なのかしら?」
「ええ、アルベルト・アインスとは仮の姿、奴は三年前に出奔したヘンリー・ラインハルト王子に他ありません」
「ふむ……。そうなると、やっかいだわねぇ……。私の導くラインハットを掠め取られやしないか心配だわ……」
アルミナは立ち上がり、侍女に肌着を用意させる。
「しかるべきご判断を……。ぜひ私めに彼奴の成敗を……」
かつてレイクバニア砦にてその任を下ろされた士官は、アルミナを伺いながらほくそえむ。彼女ならきっと正統なる王者、ヘンリーの存在を疎むだろう。何か理由を付け、廃するに決まっている。その時こそ逆恨みを晴らすときと、男は皮算用をしていた。
「そうね……、でもその前に……」
アルミナは男の前に歩み寄り、その顔を上げさせる。そして……、
「真実を知っている奴を生かしとくわけにはいかねんだよ……」
その容姿からは似つかわしくない鈍い声がした後、鋭い爪が男を穿ち、悲鳴を上げさせる隙も与えず、絶命させた。
「この生ゴミを……、そっちのも飽きたからついでに片付けておけ……」
アルミナは侍女にそう命令すると、眠たそうに欠伸をしながら部屋を出る。その背後では侍女が怯えきった様子で失禁した裸の美女の首を半回転させ、馴れた手つきで麻袋にしまっていた……。
続く