ラインハット編 その四 ラインハットへの帰還-1
ラインハット編 その四 ラインハットへの帰還
ラインハットにエンドール城陥落の知らせが届いた。しかし、戦勝の報告にも関わらず、王宮は暗い雰囲気に包まれている。
その理由は徒に広げた戦火のせい。ブランカ国への侵攻の片手間、西国にまで出兵しており、その維持費を賄えるほどの財源の見通しがない。ボンモール陥落時に得た賠償金なども、もう底が見え始めているのだ。
ラインハット国の舵はアルミナが執っている。デールはその言葉を大臣、官僚へ伝えるだけの存在。そして、下賜された政務の類は古株の大臣であるケイン・マッケインが担っていた。
ケインは既に六十を越えており、チップの死後、アルミナの圧政に異を唱え、オラクルベリーで隠居の日々送っていた。しかし、東西各国への侵略にて政務の指揮系統が混乱し、急遽呼び戻されたのだ。
本人曰く、もう少し早く橋が落とされていればカジノを破産させられたとのこと。
ともかく、今日も城の一室にて、彼はソロバン片手に実務に追われていた。
ノックの音がした。
ケインは時計を見る。定例報告は既に終えており、夕食というには早すぎる時間だった。だから無視した。
だが、またドアが叩かれる。
「……誰だ? ワシは今忙しいんだ……」
ラインハット国において彼の邪魔をできるものはいない。もし彼の仕事が滞れば、それはつまりラインハット国の政務の大半が滞ることとなる。たとえアルミナであろうと、それを邪魔することはできないのだ。
だが……、
「……ふん、死にぞこないが……」
乱暴な物言いと同時にドアが開く。城内にも関わらずフルフェイスの兜をした兵士は、ずかずかと部屋に入り込み、近くの戸棚からトランプのデッキを二つ持ち出す。
「なんじゃいお前は……、部屋の中なんだから兜ぐらい取ればよいじゃろ。暑苦しい」
「それがそうもいかないんでな……」
ふいに扉が閉まり、それを見てから兵士は兜を取る。
「お前は……」
ケインは兜を外した、緑髪の青年の顔を見て絶句する。
かつての幼さが消え、精悍さを備えた容貌。顔を斜めに走る傷こそ知らないが、野心に燃える青い瞳と力強い太い眉、高い鼻、ニヒルな唇、全てはかつての教え子を思い出させる片鱗がある。
「さすがにこんな傷じゃ師匠の目は誤魔化せないか……」
「ふふ……、長い便所じゃったの」
かつてケインの授業をサボるとき、よくトイレ休憩を使ったのを思い出す。
アルベルトは勘弁してくれとばかりに口元をゆがめるが、ケインの瞳には……。