ラインハット編 その四 ラインハットへの帰還-5
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グランバニア国。先代の王と現在の王の時代にグランバニア地方を統一されている。
高地にあるチゾットやネッドの開拓地などが散在しており、共存共栄の道を選ぶことでそれが実現したのだ。
国の定義によって七とも八とも分割される現在の大陸にて、友好的な統一を成し遂げている貴重な例。グラン山脈に眠る特殊金属や、チゾット高地の希少動物による高級食材、開拓地としてのキャパシティが、国の繁栄の礎だ。
だが、その裏に弱点がある。それは大地。
高地と荒地、険しい森林が大半を占めるグランバニア地方は、大地の恵みが乏しい。そのため食料が高騰しやすく、サラボナの商人に足元を見られることが多い。
それを挽回するために、ネッドの開拓地に希望を託している。
しかし、それを解決する一番簡単な道はなんだろうか? それは侵略だろう。
直ぐ北にはエルヘブン地方があり、北西にはラインハット地方がある。そして今、ラインハット地方が混乱の中にあり、その発端の一つが……。
グランバニアがブランカ国に力を入れるには、二重の理由がある。
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レイクバニア砦の一室にて、紅茶が淹れられていた。
グランバニア産、最高茶葉のバニアティが振舞われるが、軍議に参加した士官は一人を除いてそれを一口飲んで辞退する。
バニアティ独特の臭いは高地の茶葉の初芽のみを?いで発酵させた一級品の物。ただ、そのクセの強さにグランバニア出身の者でも馴れないことが多い。チゾットに住む人々はヤギのミルクに茶葉を入れて煮詰め、蜂蜜にてそのコクを楽しむらしい。
「ふむ……、悪鬼のさばるラインハルト軍も、もう潮時でしょうか……」
エンドールの陥落と東夷隊の補充。報告だけを聞けば戦況が険しくなるはずだが、実質届いた部隊は一個小隊のみ。
ブランカ国が反転攻勢を仕掛けるには、万全を期すなら一ヶ月、まだ数週間の猶予が必要だ。だからこそ、敵の機微には目を光らせていたが、それが徒労でしかないと、皆安堵の息をつく。
東国、西国に広げられた戦火を賄うほどの国力はない。エンドールが陥落させられたことこそ予想外だが、賠償金の自転車操業で続けられるほど戦争は倹約家ではない。
栗毛のおかっぱ頭の男はスコーンをつまみ、バニアティで流し込む。このスコーンは人気があるらしく、仕官は手を油で汚しながら、それをつまんでいた。
「このペドロ、必ずや貴方の汚名を濯いで見せましょうぞ……」
飲み終えた後、グランバニア国よりやってきた軍師は、軍議を始めた……。