夏の夜-前編--1
ぴんぽーん。
もう23時前だというのにチャイムが鳴った。
こういう時は出ない。
必要かつ急な用件ならば、まず電話がかかるだろうし。
ぴんぽんぴんぽんぴんぽーん。
連打される。
私は少し怖くなった。
今、部屋には私しかいない。
あわてて、パジャマの上にカーディガンを羽織った。
どうしよう。
息をのんで玄関のドアを見つめた時、ケイタイがなり始めた。
私はびっくりしてケイタイを手に取った。
電話は弟の遥からだった。
この際、誰だっていい。
私はすぐに受信ボタンを押した。
「もしもしっ!ハルっ?」
「あ、ねえちゃん?今どこにいんの?俺、ねえちゃんちにいんだけど」
「……。」
…ちょっと。待って?
私は口を大きくあけ、弟に言い募ろうとしていた恐怖が不発のまま収束していった。
パニックを起こしていた頭でのろのろと考える。
……と、いうことは?
……あんたか!犯人はあんたか!
私はケイタイを握ったまま、玄関ドアのレンズ越しに外を見た。
確かにハルが立っていた。
私は大きく息をついて、玄関のロックを外し、ドアを開けた。
「もう。こんな時間にビックリするでしょ?変質者かと思った。はやく上がって」
「あ、ごめんごめん。 ……大丈夫だよ」
ハルは1人ではなかった。
後ろで心配そうにしている女の子に向かって小声で言った。
「ハル、ロックかけてね」
「うん」
おじゃましまーす……。
女の子はオドオドしなからハルの後ろについてきていた。
「彼女?」
「んー、まあね」
とかいいながらニヤけている。
一方彼女の方は困った顔をしている。
私はひろげていた布団をたたんで隅に寄せた。
本当に寝る前だったのだ。
「ライブ見に行ってたんだけど、電車乗り遅れた。で、ねえちゃんちに来てみた」
ハルは軽くいったけど。
「あ。佐野智美(さのともみ)といいます。……夜分遅くにすみません。」
「いいのよ。どうせコイツが悪いんだから。足もくずして楽にしてね、私もこんな格好だし」
正座をしてカチンコチンの彼女がひどく可哀想で。
普通に考えればハルの彼女で、ただのお友達ってわけではないだろう。
そして、彼氏の身内に会うって(親じゃないにしても)緊張するものだろうし。