夏の夜-前編--3
「ごめん!」
部屋に戻るといきなりハルが頭を下げた。
「駅までは急いでいったんだけど、電車、もう家まで帰れなくてさ。街をうろうろしてると選択肢はレイトショーとかカラオケとかネットカフェとかあるんだけど、よからぬ事考えて誘惑に負けそうだったんで、断ち切るつもりでここに来ちゃった」
「…よからぬとこ、いっときなさいよ……。彼女、緊張しちゃって可哀想じゃないの」
「へ?」
ハルはへんな顔をしてこちらを見た。
あれ?つき合いはじめたばっかりだったのかな?
「ねえちゃん、それ、奨励すんの?意外…」
そこか。
「奨励もなにも、ここよりは彼女にしてみれば気楽じゃないの?」
ハルが黙り込む。
そして、しばらくしてから口を開いた。
「その……、清い交際なんだよ。彼女、俺の2コ下でまだ、高校生だし」
「は?こうこうせい?」
高校生?高校生!
夜中まで連れ回して。外泊?
イマドキ、なのかもしれないけど。
あっ!
「彼女、家に連絡入れてるの?」
「ああ、それは電車ダメだってわかったときに」
「なんて?」
「ま、幸い土曜だし。徹カラするって…」
そんな言い訳が通用したんだろうか?
でも、確かに他に言いようってのが思いつかない。
「まあ、年長者としては、高校卒業するまでは。と、一応。……とかいいながら、葛藤はあるわけ。だからヘンな気起こさないうちにここに来たんだよ!ああもう!何言ってんだ?俺!」
後半は早口でまくしたてて沈黙した。撃沈?赤くなってる。
なんだ、案外カワイイとこあるじゃないの。
私は、なんだか凹んだ感じになったハルの頭をぽんぽんと叩いた。
「わかったわかった、ハル。智美ちゃん出たら、あんたもシャワー浴びなさい。あんたの着替えはないからね」
「ん」
本当はあるけど。
一緒に住んでる私のコイビトの圭さんのが。
ハルは圭さんより小柄だから着られないってことはない。
圭さんにはこのコ達が寝ちゃってから連絡入れればいいや。