#03 研修旅行――二日目-18
「ふぅ……逃走成功。ったく、うっぜえ女だな、ホント」
林田の視界に紛れないように死角をつこうと、展望台の反対側へと回った。
「ん?」
すると、そこでは独り、岐島が飄然と外を眺めていた。
スラリと均整の取れた心棒を通したような四肢に、冷然としつつも秀麗な顔立ち。女顔負けのサラリとした黒の長髪。
細長い指を手すりに這わし、右手は親指だけをポケットに納めた、格好をつけないという格好が、それがまた美男子然としており、画になっていた。
すれゆく観光客、中でも若い女性だけのグループの視線を集めていた。
――んまあ、あのイカレ具合を発露しなきゃ、モテるんだろうな、きっと。
そんな残念同級生の隣へと私は歩み寄った。
これは、アレである。林田除けだ。
「……っ。きみか」
数秒して、岐島が私の存在に気づいた。
この男にしては、極めて鈍感な反応といえる。
どこか違和感を覚えた私を目の端に、岐島が、だれともなしに呟いた。
「昔の展望台は、もっと古臭かったね。もう影も形もないけど」
「昔の?ああ、そういや、コレって二代目だったな。話しには聞いたことがあっけど」
「俺は、そっちのも登ったことがある。十年も前のことだ」
「十年、てーと……小一?」
「いや、入学前だ。家族とね、来た記憶がある」
「ああ。お袋さんか」
「…………。んまあ、そうだね」
「……?」
私は、いつにもまして不可解な言動をとる岐島へ疑問の視線を送った。
けれど、この能面ヤローはそんな眼差しなどは見事に流し、黙り込みやがる。
しかたがないので、私も口を噤むことにした。
相模湾沿岸部が弧を描き、遠くに伊豆半島の影が窺えた。