＃03 研修旅行――二日目-16
――案外、自分の祈りは天に通じるものなのかもしれない。さすが鎌倉。
ホテルを出た私たちは、そのまま、円覚寺でなっがい階段を登って梵鐘を見学し、浄智寺で布袋像の黒ずんだ腹を撫で、横須賀線で鎌倉へ戻り、鶴岡八幡宮の倒れた銀杏の木を見つつ、源平池の源氏の方の池の真ん中に浮かぶ旗上弁天を参り、東に進み寶戒寺へ行き、閻魔像を眺め、そこから海側へ、妙隆寺でちっちゃな寿老人像を目撃し、さらに南下、本覚寺の手前で閑散とした蛭子神社に寄り、いざ、本覚寺へ。教会を思わせるどこか日本っぽくない恵比寿堂を拝し、昼食も駅前のマックでそこそこ鎌倉駅へ。江ノ電に乗り、長谷で下車。狭い一車線を北上し、長谷寺へと辿りつき、煙い洞窟に寄って、階段を昇り本殿、大黒堂、展望台と回り、出てすぐ南にある御霊神社へ。江ノ電がすぐそばを通るそこで福禄寿を含めた面掛行列とやらの資料を目に納め、そして、江ノ島へと再び江ノ電に乗った。江ノ島駅からは鎌倉とは少々、雰囲気の違う小道を海へと向かい、そして、あの有名な架け橋――県道３０５号を渡り、最終目的地、江ノ島へと無事に着けたのだった。
そりゃあ、かくあるごとに変人、岐島が「蛭子神社こそが、そもそもの恵比寿であり、記紀では、海に流された――」とか、「この長谷寺の展望台というのは、そもそも、死体の処理場だった――」などと情緒だの雰囲気だのをぶち壊しにかかってくるのだが、それは、まあ、いつものことだ。
各軽食提供店舗の前でいちいち立ち止まる岐島を林田や相原と共に代わる代わるに諌め、最初にお参りすることにした。
「――ふぅん、八坂神社、か。茅の輪潜りもあるし、竜口明神社、と。なるほどね」
「……？独りでなに言ってんだよ？」
「なに、大したことじゃない。知識の確認作業を行っただけだ。しかし――」
隣をいくカップルの、男の方が手に持ったタコせんべいを物欲しげに見つめる岐島。
「江ノ島にカップルで参るなんて、よほど別れたいんだろうか。江ノ島の弁財天は嫉妬深く――というか、夫の五頭竜には六十年に一度しか会えないのに、そりゃあ、仲睦ましい男女がなんにも知らずに自分勝手な願いをしてくるんだから、怒髪、天を突くのも当然なんだが、つまり、江ノ島弁財天は破局の神でもあるんだよ」
「えっ、でも……」
「そうだね、林田さん。ここは恋愛成就の神でもある。けれど、恋愛を成就させたいというのは、そも、どの段階なんだろう？両想いになる前か後か？」
「ああ……そう、ですね」
「そういうことさ。まあ、一般常識だけどね、これくらいは」
頷く林田へ、岐島が肩をすくめた。
ここで堪らないのは、そんな不吉なことを聞かされてしまったカップルである。互いに気まずそうに顔を見合わせていた。
そして、そそくさと境内を抜け、奥へと向かって行った。