#03 研修旅行――二日目-12
「ああ、ありがとう。気を使わせたみたいだね?」
「そんなことは……」
「ホラ……きみもお礼を――」
「ンでだよっ!」
一応、私は岐島に突っ込んだのだが……なんだ?この釈然としない気分は?
自分のクソ生意気な飼い犬が、他人に餌づけされている現場を図らずも目撃してしまったような錯覚に陥る。
というか、現代の飽食社会の高校男子がベーコンごときで一喜一憂するのはどうなんだろう?
そんな私の視線も大気の如し、暴食漢の岐島は嬉々と食事を開始した。
きっと、これ以上、なにを言っても好転することはないだろう、と私もテーブルロールをちぎり、口に運んだ。
「――ところで、今日は一日、自由行動なんですけど……どうします?ホラ、私たちって、ギリギリで班を変わったじゃないですか?それで、予定は決めれませんでしたし……。最悪、前の班と同じ旅程でも構わないんですが」
各人、目前の朝食を片付け終わろうとするときだ、ジュースを一口、林田が言った。
彼女の前の皿は、すでにすべて空だ。
すると、同じく食事を終えている岐島が、いつもの能面顔で提案した。
「もし、可能ならば、でいいんだが……」
「は、はい?なんでしょう?」
徐々にであるが岐島恐怖症を克服しつつある林田。
――つまらないヤツめ。
「このまま、鎌倉駅まで出て、横須賀線で北上」
「あっ、北鎌倉ですか?円覚寺とか、明月院とか……」
「いや、もうすこし北だ。大船まで行く」
「観音様、ですか?」
「惜しいね。もうすこし、北上することになる。根岸線に乗って――」
「根岸線……?」
林田がいぶかしんで、とうとう岐島を直視した。
そこで、ようやく食事を終えた私だったが、付き合いの差だろう、いぶかしみなんかしなかった。