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熱帯夜
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二日目-1

こんな俺にも彼女がいた時期はあった。
中学の時に一人、高校に入ってから二人…ちなみに先月別れたばかり。
終わり方は色々。こっちから別れを告げたり告げられたり。
でも特に傷つく様な事はなかったから、その程度の気持ちだったんだろうな。

だから俺はこの先もそんな風に生きてくんだと思っていた。


*****

昨日までは全く気にならなかった隣の家の物音が、今朝はやたらと耳に入ってくる。

例えば窓を開ける音。
独り言。
鼻歌。
足音。

ここに引っ越してきてからの10年間ずっと聞き流していたどうでもいい生活音が、今朝は妙に嬉しく感じる。
窓に背中を向けて寝たふりをしながら耳だけはすましていた。
するとしばらくバタバタと聞こえていたそれらの音が、窓を閉める音を最後にしんと静まり返る。

出勤したのかな。

俺みたいな夏休み真っ只中の気楽な高校生とは違う、あの人は大人で、社会人。
まして今の俺はただの嘘つき。仲良くなりたいのならまず昨日のあれは嘘でしたってきちんと謝らなきゃ。

「…」

仲良くなりたいの?

ごろんと仰向けになって数秒。

「あっつ」

何もしてないのにじっとりと沸き上がる不快な汗のせいで二度寝もできやしねぇ。
起き上がって新しい下着を掴むと、そのまま風呂へ直行。ほとんど水のシャワーを浴びてリビングへ向かった。

「誰もいないか」

そんなことを口にしてしまうほど、家の中は静まりかえってる。
母さんは同窓会だとか言って朝早くから実家へ、つまり弟のいる婆ちゃん家に行った。
いつ戻るかも言わずに出てったけど、全然問題ない。おかげで心置きなく一人暮らし気分を満喫できる。
冷蔵庫から牛乳を取り出して誰もいないのを良いことにそのまま口をつけて飲むと、エアコンのリモコンに手を伸ばして快適空間の中で二度寝することにした。



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