二日目-7
お姉さんに向けて伸ばした手は緊張で微かに震えている。それでもめげずにそうしていると、
「…っ」
手の平に柔らかなものが触れた。
握れば俺の手にすっぽり収まってしまいそうな薄い手。それが俺の手をしっかり掴んでいる。
「あ、足元と頭に気をつけて…」
少しどもりながらそう言うと、握る手に力を込めた。
「引っ張りますよ」
「うん」
「せーの…っ」
思い切り引っ張ったものの、思いの外軽いその体は予想以上に勢いよく窓を越え、
「きゃあぁ!?」
「おわっ」
クッションになるはずだったベッドから落ちるギリギリのところへ二人揃って倒れ込んだ。
「いった…」
「だだだだ大丈夫ですか!?」
慌てて起き上がると、お姉さんは頭を押さえたままジロリとこっちを睨んで、
「信じらんない!」
そう言うと、今度はけらけらと笑い出した。
「…何か、可笑しかったですか?」
「だって普通窓から入れる?」
「それは、急いでたからで」
「何で?」
「何でって…」
“お近づきになりたいから”なんて、言えるはずない。
違う言い訳を考えてると、お姉さんはくすっと小さく笑った。
「まぁ、いいや。誘ったからには飲みなさいよ」
さっさとベッドから降りてコンビニのビニール袋に入った缶ビールを幾つか取り出す姿は、その可愛らしい容姿とはどうしても一致しない。そんな違和感を感じながらふと部屋を見回して我に返った。
「…やば」
高校の制服がハンガーにかけっぱなしになってる。
本棚には教科書やら参考書が並んでるし、小中の卒業アルバムまである。
「下のリビングに行きましょう!」
「へ」
「この部屋エアコンないから!早く!!」
まくし立ててさっさと荷物をまとめると、お姉さんの背中をぐいぐい押して逃げるように部屋を後にした。
さっきまでエアコンをつけっぱなしにしていたおかげでリビングはまだひんやりと涼しい。
「ビールって缶のままでいいですか?」
食器棚を開けながら尋ねると、
「うん、ありがと」
お姉さんはそう答えてから
「自分ちみたいね」
突然核心をついてきて、手が滑りそうになる。