ラインハット編 その三 ポートセルミの砂浜で-8
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日が沈み、辺りに夕闇が訪れた頃、ラインハット第一野営地に明かりが点される。
他の野営地は小屋を残してテントなど全て撤収されており、傍目には撤退を匂わせていた。
そんな中、エンドール城下町の南東に位置する武器屋にて、黒装束に身を包む男達が居た。男達は武器屋のドアを破壊し、なだれ込むと店主を縛り上げる。
急なことに目を白黒させる店主には目もくれず、リーダー格の男が店の一階へと降り、そして……。
地下を走るラインハット侵攻軍奇襲部隊。
古びた扉を慎重に破壊し、埃の篭る部屋へ出る。そこには階段があり、何年、いや何十年とその存在が忘れられているのだろう扉を軋ませ、城内へと侵入を果たした。
その異変に気付いた見張りが槍とランタンを片手に走る。
漆黒の闇から二匹の蛇が現れたと思うとランタンを持つ手と口に激しい痛みが訪れる。
その隙に続く黒装束が猿轡を噛ませ、手足を封じ、そのまま地下へと捨てられる。
黒装束達は手に大工道具という奇襲には不釣合いの獲物を持ち、散り散りになる。
城内部にある兵舎にて、扉に閂を取り付ける。隙間に尖った木材を詰め込み、油をしみこませる。火をつけることはせず、その臭いで窮地を理解させる。
兵士の身動きを封じたアルベルト達は、見張りを残して城門の開錠と王室の占拠を目指した。
エンドールの城から白い煙が上がる。それを合図にラインハット侵攻軍が正門を目指す。
本来なら堅く閉ざされている城門だが、なんと内側から開けられ、その侵入を許す。
民は町が戦場と化すことを心配し、その行方を見守る。
階下の騒乱を聞き、城門の開放に成功したと察知するアルベルト。それはエンドール側も同じであり、王室を守る近衛兵達が剣を片手に現れる。
「貴様ら、どこから!」
「入り口からに決まっておろう?」
アルベルトは軽口と共に鞭を走らせる。それは近衛兵の利き手を的確に打つ。しかし、並の兵士とは装備が違う彼らの手はナックルカバーに守られており、多少の痛みに堪えつつ上段を振りかぶる。
自信故のおごりか、アルベルトはそれを予期できずに兜で受けるはめになる。
剛剣は兜を破壊するがそれに留まり、突如放たれた真空魔法が近衛兵を吹き飛ばす。
「!?」
無詠唱の真空魔法に皆の目が丸くなる。黒装束の男達にそのような高尚な魔法技術があるわけでもなく、突風が吹くような場所でもない。
唯一その原因を知るアルベルトは、その隙に残りの近衛兵に鞭を放つ。今度は手を打つなどと甘いことはせず、しっかりと露出した顔を打つ。そして多勢に無勢のまま押し切った。
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暫く聞こえた剣戟もすぐに収まる。
エンドール軍は緒戦のボンモール落城で兵を失っていたものの、野営地にあるラインハット侵攻軍の倍はある。援軍が来たという様子もなく、いくら城門を開かれたとはいえ、制圧されるはずが無い。きっと撃退したに違いない。
民衆はそう考えていた。
しかし、城のバルコニーに松明が点され、現れたのはラインハットの三本線が印された鎧を纏う緑髪の男だった。
民衆はその光景に目を疑った……。
南東に位置する武器屋は竜の神が存在したころから王家と縁のある老舗。戦乱と遠ざかるうちに地下通路の存在は意義を失われ、ボンモールに併合された時、文書のやり取りの中、見逃されていた。それを発見したのは好奇心溢れるラインハット国のやんちゃ坊主だった。
彼は隠し通路を通って内側へと忍び込み、兵舎のドアに閂をかけて回った。兵士の大半を封印した状態で城門を開け、官僚、大臣の拘束をした。
倍以上の戦力とはいえ閉じ込められては振るう矛も無く、向ける先も無い。
寝室にて佇む王、リック・ボンモルドは現れた黒装束の男を前にして、驚いた様子だった。
剣を構える黒装束の兵士達。そのリーダー格の男はそれを制し、寝室にて二言三言、話をしたあと、エンドール城もまた、制圧された。