心の隙間と二人の秘密-2
「栗原先輩、彼女さんに悪いです…。駄目ですよ。」
「ん?なんで?遅くなったから泊まるだけでしょ?」
「だって…その…この状況は良くないのでは…」
うまく説明できずに困る侑子を見て祐輔はクスッと笑うと、紅く染まった侑子の耳元で囁く。
「侑ちゃん…何か期待してるの?」
「…っ!」
ぞくりと侑子の身体にあやしい感覚が走る。祐輔の声はいつもと違う艶があり、侑子の耳はそれを敏感に感じていた。
「ち、違います。だって彼女さん以外を泊めたりしたら…」
「図星だったのかな?耳真っ赤。侑ちゃんが言わなきゃ分からないよ。それとも誰かに言う?俺んち泊まったって」
「っ…ぁ。そんなこと…言えないです。でも…」
「二人だけの秘密。ね?」
祐輔が囁くたびかかる息に侑子の身体はピクッと反応していた。くすぐったいような不思議な感覚。侑子は身体を強張らせた。
「…なんて冗談。何もしないから安心して寝て。」
「あ…え?」
「あ、でも言わないっていったから、他の人には秘密だよ。じゃ、おやすみ。」
祐輔はそういうとそのまま目をつぶる。侑子は状況を飲み込めないまま、緊張していたが、しばらくするとすぐに祐輔は静かに寝息をたて始めた。侑子はその寝顔を見つめ、ぽつりと呟く。
「何考えてるのか分からないよ…先輩…」
きっとからかわれただけ、今日のことは約束通り秘密にしようと侑子は決めた。祐輔の気まぐれで起こったことなど忘れてしまえばいいし、実際何も無かったように日常に戻るだろう。けれど、
『侑ちゃん…何か期待してるの?』
「…っ!」
侑子の頭に残る祐輔の言葉。まるでその言葉に支配されるように、身体が熱くなる。侑子は忘れようと頭を横に振った。
『二人だけの秘密』
侑子は自分を捕らえる罠に自ら堕ちてしまったのだ。それが罠とも知らずに…。