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熱帯夜
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一日目-3

「シーッ!大声出すな!」

びっくりした!
びっくりした!
…びっくりしたぁあぁ

ちょっと待てよ。
マジで信じちゃった?

「うそ…」

それはこっちのセリフだ。
嘘だと白状するべきか、嘘をつき続けるべきか…

「ま、そーゆう事」

悩んだ末の決断は後者だった。

「そーゆう事って何!?」
「声がでけぇよ」
「だっ…て、そりゃそうでしょ?旦那さんは家族と離れて頑張ってるのに自分は愛人作るって――」
「寂しかったんじゃないの?」
「寂しいのは旦那さんも一緒でしょ!」
「それはそうなんだけど」
「ていうか、あなたは恥ずかしくないの!?」
「へ、俺?」
「そうよ!」
「俺は別に…」
「いくつだか知らないけどかなり若いでしょ?だったらそこら辺の若い子捕まえればいいじゃん。何でわざわざ人妻なの?小学生の子供達はどうなるのよ!」
「あぁ…、子供ねぇ。子供は今――、夏休み…、そう、夏休み!ばあちゃん家に行ってる」

これは嘘じゃない。実際中学生の弟は避暑地にあるばあちゃんの家に行ったまま帰ってこない。

「子供預けて自分は若い愛人連れ込むって、頭おかしいんじゃないの」
「そんな言い方するなよ!」
「…」

…しまった。
一瞬母親を馬鹿にされたような気がしてつい大きな声を出してしまった。
でもよく考えたら俺のついた嘘の方がよっぽど母親を馬鹿にしているよな。

「あ、いや…、そんな言い方しなくてもいいんじゃないかな」

だから全く同じ内容を今度は優しく言い直した。

やっぱりちゃんと謝ろう。
ごめんなさい、嘘でしたって伝えよう。
この人は素直過ぎる。こんな嘘で振り回していい筈がない。

「あのさ、俺ほんとは――」
「分かった!」
「俺―…、うん?分かったって…?」
「あなたは本気で奥さんが好きなのね?」
「……………へ」

言われた瞬間母親の顔が頭に浮かんで、一気に全身に鳥肌が立った。

「辛い恋をしてるのね」
「は?辛い…、恋――?」

こい?
恋!?
恋って何だよ。
誰かの口から恋なんて単語、聞いたことねぇよ!

「あたし絶対あなたの事内緒にする。その代わり、条件があるの」
「あ、お、おぉ」
「子供達が帰ってくる前に、潔く出ていって」

おいおいおい、マジかよこの人。
素直にも程がある。


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