「肉体の悪魔」-3
「恋を知れば女の子はもっと綺麗になる。相手が君なら気に入られようと仕事にも力が入る。今までそうやって渡ってきたじゃない」
その言葉を苦虫を踏み潰したかのように楼主は否定した。
「恋ならしている」
傍らにしゃがみ込むと楼主は橘の胸ぐらを掴む。
「相手は誰なんだ?お前は知らないのか?本当はお前なのか?──なぁ、お前は何のために舞を抱くんだ?」
その手を静かに振り払うと橘は微笑んだ。
「──ただの好奇心だよ」
舞を床に寝かせ直すと橘は立ち上がる。
「ヒトの身体って簡単だよね」
そのまま楼主の周りをゆっくりと歩くと再び机に腰掛けた。
「ちょっと刺激を加えただけで男も女も直ぐにその気になる」
その瞳は真っ直ぐに楼主を見つめる。
「喩え心が伴わなくても」
だから溺れるのだ。
快楽の蜜は実に甘く躯を溶かす。
その街で生まれ育った男は、そのことをよく知っていた。一方で、恋情の赴くまま、欲望のままに女を抱く快感と痛みも味わったことがある。
──だから、抱けない。
「ねぇ、愛し合う者同士のセックスって信じられないくらい気持ちいいってホントかな?」
楼主の葛藤を見透かしたかのように橘は言った。
「嘘だよね。だって、ココの女の子たちと遊ぶのって本当に気持ちいいもん」
遠くを見つめながら橘は続ける。
「テクニックのある子なら余計に」
とん、と机から降りると橘は再び舞を抱き上げた。
「だから興味があるんだ。もしも彼女が僕を好きになってくれたら、今よりもっと素敵な快楽が手に入るんじゃないかって」
ポッテリと赤い舞の唇に指を這わす。
「だから、早くしないと盗っちゃうよ?」
その瞳はやけに真剣で、いつもの飄々とした橘の面影はない。
「んんっ…」
楼主が何かを答えようとしたその時、舞が目を開いた。
「あ…、橘せんせい?」
自分を抱き上げているのが橘だと知った舞はにっこりと微笑みかける。
「───っ!」
その様子を見た楼主は訳もなくイライラするのを感じた。