初夏のすれ違い / コトバ編-1
風間 朔光は、困っていた。
その日、いつも通りバイクで家を出たはいいが、待ち合わせをしたカフェはやけに洒落ていて、今日の目的を考えれば相手のチョイスは間違ってはいないのかもしれないが、高3の男子には居心地が悪い事この上ないのだ。
そして、目の前に座る待ち合わせの相手は、せっかく頼んだ食べ物を数口かじっただけで、さっきから残りは放置したまま黙りこくっている。
…間がもたないと言ったらありゃしない。
頬杖ついて、目の前の相手をじっと見つめる。
…片桐 亜紀子。
小1から知っている相手だからか、どうしても幼い頃の面影を重ねてしまう。
しかし今では、すっかり"オンナ"なのだ、とサクは思い出す。
脳裏に甦る、彼女の乱れた表情、甘い声、柔らかな肢体。
とは言え、やっぱり痩せたな、と別の目線で見てみる。
春休み明けに彼女を見た時は驚いたが、あれから更にアゴが尖ったようだ。
カラダは"イイ"ままなのに、とつい想像してしまうが、痩せたのが自分のせいでもあることを思うと後ろめたさがある。
「…食わねーの?」
「だって…パンがパサパサする」
「ガキみてーなコト言うなよ、また痩せちまうぞ」
遠回しに心配していることを伝えると、亜紀子は親友にも同じことを言われた、と驚いていた。
亜紀子が痩せたことに、気付いた自分も、心配している自分も、サクとしては照れくさかったけれど、これ以上彼女がやつれるのは嫌なので、なんとか食べてもらおうと飲み物を奢ってやる。
運ばれてきたりんごジュースをチビチビすする亜紀子を見ながら、サクは数日前のことを思い返していた。
〜・〜・〜・〜・〜
サクが、突然女子に呼びとめられたのは、GW直前のある朝のことだった。
彼は、部活の朝練のために体育館へ向かっているところだった。
「…―サク。
ちょっといい?」
同い年にしては大人っぽい表情で目尻を吊り上げていたのは、伊藤 結衣だった。
最近よく彼女に睨みつけられている気がしていたが…気のせいではなかったようだ。
そして、このところ自分が"玩んでいる"のがその親友の片桐 亜紀子、とくれば、安穏な話ではないことくらいすぐに分かる。
「…んだよ?」
「分かってるでしょ…亜紀子のこと。
そろそろ解放しようって気はないの?」
「無ぇよ」
即答。
「あんた、亜紀子のことが好きなの?」
「…っ!?」
今度は、即答できなかった。
「まぁ、今は亜紀子に好きな人がいないから…あんたの気持ちなんて、本当はどうでもいいんだけど」
…じゃあ聞くなよ、と心の中で突っ込む。