初夏のすれ違い / コトバ編-16
…―あれ、俺…?
…んちゅっ…
がばっと起き上がると、濡れた音を立てて、2人のくちびるが離れた。
…俺、今…最後、キスしてた…?
「…あーっ!」
突然亜紀子が声をあげた。
呆然とするサクから顔を背けた亜紀子の目の先にあったのは…
「サク、時間っ、やばい…!」
「え、あっ!
げっ、マジやべぇじゃん!」
チェックアウトの時間が迫っていた。
とりあえず亜紀子の手首のタオルだけ外し、慌てて二人とも服を拾おうとした。
「「…ぁっつ…!」」
途端にお互い腰を押さえる。
3回も激しいセックスをしたせいで、若いのに腰にきたようだ。
気不味さのあまり、二人とも黙々と着替えて身支度を整えた。
精算をしてドアを開けると、美しい夕焼け。
爛れた自分が恥ずかしくなるが、嬉しいことに隣には共犯者がいるのだ。
この気恥ずかしさは、ラブホを出ようとする二人にしか分からない。
軋む腰に気を使いながらバイクにまたがる。
後からひらりと足をかけた亜紀子の動きも、だいぶこなれてきたはずなのに、腰だけはぎくしゃくとしている。
「…ははっ」
「どしたの、サク」
「…いや、俺は"笑ってもいい立場"だから笑っただけ」
本当に、なぜ亜紀子とこんな関係になったのか。
亜紀子を駅で降ろし、わずかに疲れた後ろ姿を見送ってバイクを出す。
…―好きでもなんでもなかったのに。
晩飯目指して夕闇を駆け抜ける。
あんなオシャレカフェだけでは、さすがに腹が減ってきていた。
…まぁ今は、アイツも俺も、好きなヤツはいないし…っつーか、ガッコじゃ付き合ってることにしてるんだっけ。
晩飯の前に、風呂に入った。
鼻の利く母親に嗅ぎ付けられてはたまらない。
…アイツも、アニキと俺を相手にするんじゃ大変だろうな。
他人事のように思いながら、ニヤつく口元を引き締めて晩飯にがっつく。
…ア○ルセックスに浣腸か…興味は無くもないけど、片桐が泣くからな。
…伊藤にも、泣かすなって言われたし。
上の空のサクを、実は母も弟も、怪訝に思っていたのには、気付いていない。
…―なんつって、また今日、いっぱい泣かしちまったけど。
風呂に入ってサッパリしたし、腹も満ちてそろそろ眠くなるはずなのに、なぜか目が冴える。