初夏のすれ違い / コトバ編-11
「…そういうことは、好きなヤツ作って言えっての」
そして、気不味い空気から逃げ出して風呂場に向かう。
熱い湯が、心の中のモヤモヤまで洗い流してくれればいいのに、と思った。
風呂から出て来ても、亜紀子はまだ素っ裸のままでベッドに座り込んでいた。
なんだか難しい顔をして、サクを見上げてくる。
「…何」
「…なんで、あたしに好きな人がいないって知ってるの…?」
「伊藤がそう言ってたんだけど。
違うの?」
「…ん、うぅん、違くない…。
そっか、結衣から聞いたのか」
なにやら一人で納得しているようだ。
いったい何が聞きたかったのか分からない。
サクの中のモヤモヤは、なぜか大きくなるばかりだ。
「…風呂入んねーの?」
「あ、うん、そだね。
サクも、早く服着ないとカゼ引いちゃうよ?」
「まだあちーもん」
サクは、ベッドの端でガシガシ髪を拭いていた。
それを見ていた亜紀子が、突然忍び笑いを漏らす。
「…ふふ、なんか笑えるね」
「…何が?」
「こんなトコで、裸でサクと話してるなんて。
なんかヘンなの」
「…今更」
「そーだけど。
でもさ、昔っから知ってるサクとこんなことになるなんて、思いもしなかったから…ふと我に返ると笑える」
サクは拭き終わったタオルを肩にかけ、軽く髪を掻き上げる。
1mも離れていない亜紀子は、すぐに捕まえられた。
「…っ!?」
「…のんきなヤツ。
お前は笑える立場じゃねーだろ」
「さ…サク…」
手首を引いて押し倒すと、しなやかな体はあっさり横たわった。
戸惑いながらもまっすぐ見上げてくる亜紀子は、恐れているようにも期待しているようにも見える。
「…いつまでも裸でいるとまた襲うぞ?
つーか、むしろ誘ってる?
こんな簡単に俺に従うなんて」
「ちょっ…なワケないでしょっ!
抵抗しないだけでそんな言い方しないでよ」
「は?抵抗?
…すれば?
そしたらもっと、俺が楽しめるじゃん」
サクはモヤモヤに流されて、加虐的な言葉を止められない。
うっすらと亜紀子のほおが赤くなってきたのを見ると、更にいじり倒したくなる。
ギリッと亜紀子の手首に力を込めると、亜紀子は吐息を漏らし、カラダは妖しくくねった。