1・サイテーなハジマリ-2
『なあ、早く起きろよ。寝てる場合じゃないだろ、今度こそ成功させなきゃ』
カラスの呼び掛けに全く反応せず、抱き枕の様に布団にしがみついてすやすや眠っている。
ブレザーの制服を着ていて、黒髪を後ろに結んだポニーテールの女の子だった。
あの箱に入ってた、とでも言うのか?
『こら!起きろ、サキュバスが雄を前にして睡眠を優先するなって!』
カラスに顔を羽でばたばたと叩かれ、女の子は不機嫌そうに顔を上げた。
『今日は寝かせて。また明日頑張るから』
『さっきは失敗したけど、せっかく入り込めたチャンスを無駄にするつもりか?』
『・・・え、入ったって?』
その女の子は目を擦りながら部屋を見回す。だが、直ぐに俺に目線を固定した。
『きゃああ!ほ、本当だ!』
殆ど開いていなかった目蓋がピンポン玉の様に剥かれ、ベッドから起き上がる。
『あっ、あの、あのぉ、初めまして!わっ私、リリスのサキュバスっていうの!』
『逆だよ、名乗る時は最初に種族名、次に名前。サキュバスのリリスね』
耳慣れない単語の様な名前だが、彼女は日本人ではないという事だろうか。
だが、外国人の様な顔立ちには見えない。
『あっ、あのっ、私、魔界から、えっと、お腹が空いたら雄から、あの、その』
一体何を伝えようとしているんだ?
さっきから訳の分からない事ばかりで、夢でも見ている様な気分だ。
もしかしたら本当はまだ残業中で、会社で居眠りでもしているんじゃないだろうか?
ほっぺをつねってみたが痛い。
こういう場合は夢か現実か、どっちだったか分からない。
『リリス、おれに任せて。上手く説明するから』
ピンクのカラスが俺の前にパタパタとやってきた。
よく見ると普通のカラスと同じ大きさだ。なのに色が変だし、言葉を話している。
『この子はリリス、サキュバスさ。でもまだ見習いで、一人前になる為に魔界から修行にやってきたんだ』
『そ、そうなの、それで』
『だからおれが話すよ。でね、立派なサキュバスになる為には人間の雄を沢山こなさなくちゃいけないんだ。
ちゃんと偉い人に認められるまで、ひたすら繰り返す。厳しい修行を積まなくちゃいけない』
はあ、そうなのか。
よく分からないが悪魔だかサキュバスだかってのも苦労しなくちゃいけないんだな。
何気なく携帯を見たら何件かメールが来ていた。
確認したら同僚や上司からの明日以降のスケジュールについての内容で、どうやら夢ではないらしい気がしてきた。