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ご先祖さまは…女岡ッ引き
【推理 推理小説】

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ご先祖さまは…女岡ッ引き-3

千歳は、まるで狐につままれたような顔をした。
「盗んでいかなかって、どうゆうコトよ…」
「いやぁ、それが…連中は何かを探していたみたいで…子分の一人が倉の中にあった、高価な品物に手を出した時に…盗賊の首領らしい男が」
陸奥屋 平兵衛は、縛られていた時に見聞きした事柄を話しはじめた。

「『ばかやろう!そんな物より、しっかり例の物を探さねぇか!あれが、人の目に触れたらどうする!』…と、怒鳴っていました」
「ふ〜ん、変な話しね…他に何か気がついたコトはない?」
「そう言えば…その男は、倉の中にあった陶器を手に妙なことを呟いていたような」
「どんなコトを?」
「『カンナが笑ってやがる…』とか『トンボが…』どうのこうのとか…」
「カンナ?トンボ?なんのコトかしら?」

千歳は、頭を掻きながら倉の中を見回した。
書画や骨董品に混じって…棚に伏せてある、大皿や金箔の剥げた仏像を千歳は、なに気なく眺めた。

「ふむっ…まあ、稲荷党が殺しはしない、連中だったのが不幸中の幸いよね…」
「本当に…こうして、命があるだけでもありがたいことです」
と、陸奥屋は両手を合わせて神仏に、命の無事を祈った。
「話してくれてありがとう…じゃあ、なにかわかったら報告するわ…」

千歳が、倉から出て去っていこうとした、その時…陸奥屋は、考えあぐねた末のような口調で、千歳に声をかけた。
「あのぅ…これは、まだ奉行所には届けていないことなのですが…実は、一ヶ月にも何者かに、倉の中に忍び込まれたようなので…」
「なんですって!?」

千歳は、驚いた顔で陸奥屋を見た。
「そんな大切なコト、どうして最初に言わないのよ!」
「すみません…なにしろ、届けを出していいものか、どうか迷っていましたもので…」
「どうゆう意味?」
「はい…倉の錠前が壊されていましたが…この時も、何も盗まれてはいなかったので」
「はぁっ!?」

千歳は、改めて倉の中を見回す…高価な物品も、数多くある。

「奉行所に届け出なかったのは、なにも取る物が無い店だと…世間に思われるのがイヤだったから?」
「はい、お恥ずかしながら…今回は、盗賊に縛られるほどの事件でしたので…これは、届けなければと思いまして」
と、陸奥屋はバツが悪そうに頭を掻いた。

その時…倉の方に、千歳と同歳くらいの女中が、歩いてきて、千歳たちの前で一礼した。
「旦那さま…大会に出す、饅頭をどこの店に注文するのか、番頭さんが聞いてくるようにと」
「おぉ…そうか、すぐ行くと番頭に伝えてくれ…それから、番頭にこの倉の鍵を渡してきておくれこんなに幾度も、盗っ人に入られると物騒でいけない…別の倉に中の物を移すから」
「はい…」
女中の女の子は、陸奥屋から受け取った倉の鍵を手にペコリと、頭を下げると去っていった、千歳が尋ねる。

「今の子は?」
「はい、半月ばかり前に小間使いでもいいから、働かせてくれと店に来きまして…身寄りが無いと話していましたので、可愛そうに思いまして雇っている次第です…素直で働き者の良い娘です」
「そうっ、大会って?」
「はいっ、一週間後に【饅頭〔まんじゅう〕の大食い大会】の催しを以前から計画しておりまして…」
饅頭の大食い大会…と、聞いて千歳の顔色が青ざめた。

千歳の脳裏に、その昔…女友達から勝手に出場を登録され…渋々、出場した【饅頭の早食い大会】で、危うく饅頭を喉に詰まらせて…三途の川の手前まで行った悪夢が蘇る…あの日、以来…甘い物が好物の千歳ではあるが、饅頭に関してはトラウマが残り…恐怖を感じるようになっていた。

「そ、そう…じゃあ、また何か思い出したら訪ねてきて」
そう言って、饅頭恐怖症の千歳は、その場から逃げるように去って行った。
歩きながら銀八が、千歳に話しかける。

「いったい、どうゆうことでしょうねぇ…あっしには、さっぱり分かりませんぜぇ…稲荷党が陸奥屋に二度も、続けて忍びこんだわけで?」
「まさか…わざわざ、なにも取らないで二回も入るなんて…意味が無いじゃない」
「そうですよね…じゃあ、稲荷党はなんのために陸奥屋に忍びこんだんでぇ?」

「う〜ん、何かを探していたコトは間違いないわよね…【誰かが倉のカギを壊して陸奥屋が錠前をつけ変えたから、稲荷党はしかたなく店の主人にカギを開けさせた】…って考えるのが自然よね」

銀八は、ポンッと手を打ちつけた。
「あっ!なるほど…【用意した合い鍵が使えなかったから、店の者を誘い出して倉の錠前を開けさせた】ってわけですかい…それじゃあ、鍵を壊したのは、いったい誰なんですかい?」
「そこまで、まだわからないわよ…ミステリアスよね」
千歳は、町人や武士が往来する、華やかな江戸の町並みを眺めながら、肉桂を噛み締めた。


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