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ご先祖さまは…女岡ッ引き
【推理 推理小説】

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ご先祖さまは…女岡ッ引き-7

「…と、言うのが美姫のご先祖さまが、心の中に引っ掛かっていた事件だそうだ…謎は解けそうかい」
先祖の残した古文書を読み終えた、溪一郎が言った。
「なるほどね…」
空になった、ウドンの器を前に話しを、今まで黙って聞いていた、千歳の子孫の深川 美姫は微笑んだ。
「その顔は、なにかわかったみたいだな…聞かせてくれないか」
「うん、これは…あくまでも推理なんだけどね」

と、断わりを入れて美姫は話しはじめた。
「その、マンジュウの大喰い大会で亡くなった…【『富蔵』って人が、『稲荷党』から抜けたがっていた賊の一人だとしたら…】つじつまが合うわ」
「富蔵が、稲荷党の仲間?ほうっ…それで」
今度は溪一郎が、美姫の推理に耳を傾ける。

「確か…稲荷党は、何かを探す目的で『陸奥屋』の倉に入ったのよね」
美姫は、コップの水で喉を潤して、推理を続ける。

「【最初に倉に忍び込んで鍵を壊したのが、富蔵だったとしたら…】どうかしらね」
「富蔵が?どうして、そんなコトを…いったい富蔵は、なにを盗んだんだい?」
「【盗むために倉に入ったんじゃないわ…置いてくるために忍び込んだのよ】」
「置いてくるために入った?」
「稲荷党の首領って…陶芸の道に通じていたんでしょう…【なにか、稲荷党の名前を入れた陶器を、契りの証しとして作ってあった】と、考えてみたらどうかしら?」

美姫は、空になったウドンの器を手にした。

「どこかで聞いたけれど…水を注いだら絵や文字が、浮かび上がる器ってのもあるみたいよ」

「なるほどな…すると、【富蔵が稲荷党を抜けようと…その、契りの証しとなる物を盗み出して、陸奥屋の倉に隠した…それを、探すために稲荷党が陸奥屋に押し入った】のか…」

「そうね、富蔵は最初から稲荷党が、次に狙っていたのが陸奥屋だと知っていた…【そして、陸奥屋が『マンジュウの大喰い大会』を開くコトも知っていた…だから、稲荷党の契りの証しの大皿を盗んで隠した…】」

溪一郎は、あっ!と小さく声をもらす。

「富蔵が、鍵をワザワザ壊した理由は、それか…ち、ちょっと待てよ。稲荷党は倉の中を探したのに、見つからなかったんだぞ…美姫が言う大皿ってのは、どこに隠してあたんだ?」

頬杖をした美姫が呟く。
「たぶん…【伏せた大皿の下】」
「そんなんじゃ…すぐに見つかるだろう…持ち上げたりされたら」

「そうよね…でも、【伏せた皿の表に貼りつけてあった…としたら】どうかしら?万が一、持ち上げられたりしても、綿かなんかが入っていたら…それ以上は見ないでしょう」

「そうか!!!」
溪一郎が、声を張り上げた。

「クッションが入っていれば…貼りつけた皿が、大皿の中で落ちた時の用心にもなるからな…でも」
ここで、溪一郎は疑問の表情を見せた。
「その隠した皿を、こっそり取り出した人間がいるんじゃないか?」

「この事件の面白いところは、そこよ…思い出してみて…【陸奥屋が新しくつけた倉の鍵を、一時預けた人物がいたじゃない…ほらっ】」

「女中の娘かぁ!!」
「正解…【その娘が、富蔵の身内だったとしたら…どうかしら、後からコッソリ鍵を使って倉に入ったのか…合いカギを作ったのかわからないけれど…富蔵の隠しておいた皿を、大皿から剥がした】もちろん、貼りつけてあったノリの痕跡は拭き取ってね…その時、うっかりか、意図的かはわならないけれど…伏せて貼りつけてあった方の大皿は割れた…」

「すごい、すごい推理だよ美姫…じゃあ、富蔵の本当の目的は…」
「【盗んだ稲荷党の大皿を大会で使用させるコト】だから、そんな面倒なコトをしたんじゃないかしら…」
「富蔵が大喰い大会に、出場した理由は?」

「う〜ん、あたしが思うに…罪滅ぼしの意味で、自分を晒し者にしたんじゃないかな…【たぶん、その会場には稲荷党も見に来ていたんじゃないかしら…】群衆の中で役人もいたから、手出しはできなかっただろうけど」

「それじゃあ…マンジュウを喉に詰まらせた、富蔵が賞品の紅白マンジュウに手を伸ばしたのは…食べたかったんじゃなくて…」
「そうっ…【マンジュウの盛られた皿のコトを、伝えようとしていたんじゃないかしら】富蔵は大会が終わったら…皿の秘密を喋って捕まる、覚悟をしていたのかもね…富蔵にとっては、無念な結果になったけれど…」

「【その、富蔵の果たせなかった思いを…身内の娘が、目安箱を使って晴らした】ってコトか…」
「かもね…今となっては、江戸時代の話しで…真相は確認できないから…推理の域を出ないけれど…」

と、長い推理を溪一郎に聞かせ終わった美姫は。
「ふうっ…」
と、軽くため息をもらしてから…先祖の残した錆びた、十手をしみじみと眺めた。

【完】


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