けんぽなし〜ニゲル〜-1
「大変、大変、大変大変ーーーーー!!」
大声を張り上げながら太一の部屋の戸を開けたのは砦…
「うるせーなー…暑苦しいのに暑苦しい声出すなよ…」
ベッドで寝ていた空がダルそうに起き上がる。
「はい、落ち着いて〜〜」
円、砦にお茶を手渡し、自分の隣に座らせた。
「いや、大変なんだって!!」
「どうした?」
耕太郎、身を乗り出す。
パソコンをいじっていた太一もくるりと砦を見る。
「駆け落ちだ!!」
ーえ…
「駆け落ちしたんだよあの2人、あの…透蒔と綾っっ!!あいつら昨日から帰って来ないらしくて…」
確かに…
あの2人、松川 綾(まつかわ あや)と金田 透蒔(かねだ とうじ)は保育園の頃から仲が良くて、小学校も中学同じなハズだ…
ー…でも…駆け落ちって……
「ほっとけよ、そのうち連れ戻されるだろ」
空が寝ころびながら言い放つ…
「一晩帰らなかっただけで何で駆け落ちなんだよ」
耕太郎が言った。
ー!!…一晩…だけ…って、そんな、大問題じゃん!!
「綾がオヤジさんと揉めて、透蒔の家に逃げ込んで、透蒔の母さんが目離したスキにいなくなってたらしいんだ」
ー……
「だーからほっとけって、ガキ同士逃げたって行く場所なんてねーよ」
空、ケタケタと笑いながら言った
ー………
そうかもしれない…どんなにあがいても私達は‘子供’という枠組みに同じように入れられる…
誰が誰か…関係なく…
だけど…やっぱり…
「…私っ、探しに行く!!」
私、ポケットのどんぐりを握りしめ、立ち上がる。
「はぁ〜!?お前は本当にバカかよ!?何でもかんでも首突っ込んで!!この、チビっ貧乳!!」
空が勢いよく飛び起きる。
ーなっ…
「いいじゃん、探しに行こうぜ」
耕太郎、ゆっくり立ち上がる。
ドキンー
ー耕太郎…
「勝手にどうぞっ、俺行かねーからな」
そう言って、空はまたベッドへ寝転んだ。
ーフンっ、勝手にします!!来なくて結構ーー!!
突き刺す日差しの中…私達は太一の家を後にした。
太一の家に残ったのは、空と太一…
「瑞希、この駆け落ちの情報、どこから入ってきたと思う?」
突然、砦が足を止めた。
「え…??」
ーそう言われれば…
「なーんと、歩から」
「え!?歩?何で?」
「さぁーなー…俺らが太一の家に集まるのと同じ理由なんじゃねーの…」
そう言って笑顔を見せた砦…
ー…歩…
私は胸が熱くなる…その熱さはつんと鼻の奥までやってきて、涙が目に溜まっていく…