「エデンの蛇」-1
─3月は獅子のようにやってきて、子羊のように去っていく。
英国の古い諺にあるように、今年の3月は吹雪と共にやってきた。
「っしゅん」
舞はひとり教室の中でくしゃみをした。
雪が酷くなる前に学校は休校になったのだが、迎えが来るまで舞は校舎内に取り残されてしまったのだ。
「…誰かいらっしゃるの?」
その時、澄んだ声とともに教室の扉が開いた。
「まぁ、貴女も居残り?」
おっとりとした口調で教室に入ってきたのは3年生の少女だった。
「はい。迎えが来るまで。先輩は帰らないのですか?」
舞の答えに彼女は微笑む。
「後少しで学園ともお別れだと思うと、何だか名残惜しくて」
卒業式は1週間後に迫っていた。
「そう思ってる間に雪が酷くなって帰ろうにも帰れなくなってしまったわ」
あまりにもおっとりとした物言いに、舞も思わず笑みをこぼす。
「そうだ!貴女も暖を取りに行かない?ここは寒いわ…」
確かに、彼女の言うとおり人気のない教室はかなり冷え込んでおり吐く息も白い。
舞もその言葉に同意して教室を後にした。
「いただきます」
湯気を立てるカップに舞は口を付ける。
舞が連れてこられたのは茶道部が水屋として使っている六畳ほどの和室だった。少女は慣れた手つきで湯を沸かすと棚から茶葉とポットを取り出し茶を入れた。暫くして濃い赤色の液体がカップに注がれる。
「美味しいです」
フワッと浮き立つような花の香りを胸に吸い込みながら舞は笑顔を浮かべた。
「そう。光栄だわ」
そう言ってカップに口を付けた少女は、舞と2つしか違わないとは思えないほど大人びて見えた。
「ところで、別所さんは随分と胸がおありなのね。少し触らせていただいてもよろしいかしら?」
その整った唇から放たれた予想外のお願いに、舞は目を白黒させた。
「あのっ…」
何か言おうと舞が言葉を探す間に、少女の手は舞の両の膨らみを捕らえた。