図書室で先生と。-2--5
…多分、異性としての好意を持っていてもその気持ちは押し殺すのが当然だと思っていたからだ。
でもおれの中でその一般常識が今やただの建て前で。
橘を引き寄せた時の華奢な肩や手の平に触れた唇、かかる息、赤くなった頬、その一つ一つがリアルに頭の中を駆け回る。
掛ける言葉が見つからないまま、橘から目を逸らし、ハンドルを抱えるようにして、その上に顎を乗せて思案する。
しんと静まり返る車内。
その静寂を打ち破ったのは橘の思いがけない質問だった。
「せ…先生は…」
「…ん?」
「先生は…か……かの………じょ…とか……いるん…ですか……?」
「…は…」
(かの……じょ、って“彼女”のこと…だよな…。)
益々下を向き、顔を真っ赤にして肩まで力が入ってる。
「た、橘…?」
「やっぱり……居ます…よね…」
一気にシュンとした悲しい表情になり自己完結する橘。
「いや、橘…?なんか勝手に結論出してるけど、おれ彼女いない…けど。」
「…!」
勢いよく顔を上げてシュンとしてた表情から一瞬でキラキラの瞳に変わっていく。
「ホント…ですか?」
「ホント…です。」
橘の迫力に負けて口調まで移る。
百面相のようにコロコロと表情を変え、今は何だか安心したように微笑んでいる。
(ヤバい…本気で…かわいい…んだけど…)
今すごく…橘に触れたい。
こんな時に、とか。
お互いの立場、とか。
自分を抑える術はいくらでもあるのに、頭で考えるより先に身体が動いて橘の頬に触れる。
少しピクッとする橘。
目と目が合い、数秒間見つめ合う。