「夕闇の孤独」-1
口づけは甘く、どこまでも深く、花のように、毒のように、その身を沼の底まで沈めていく。
「んんっ…」
眠っていた少女は、その行為に微かに声を漏らすが、目を覚ますことはなく数秒後にはまた、深い眠りに落ちていった。
「楼主様、お身体に障りますからどうかお休みください」
扉の蔭にいた九木が主に声をかける。
「あぁ…」
返事をしながらも、この見世の主はその場を動こうとはしない。
あの雨の中、楼主に背負われて帰ってから、舞は眠り続けていた。
勿論、それは楼主が飲ませた安定剤のせいもある。
が、薬の効果はとうに切れているだろうに、舞がここまで目覚めようとしないのは、舞自身が精神的な疲れから現実に戻るのを拒んでいる証でもあった。
「…俺は、王子様にはなれそうにもないな」
唇を重ねても目覚めようとしない舞に、自虐的に呟くと楼主は席を立つ。
仕事がある以上、舞にばかりかまけているわけにはいかなかった。
後ろ髪を引かれるような思いで楼主は見世に戻っていった。
「んっ…」
それから数刻して、舞は目を覚ました。躯は重く気だるくもあったが、風邪の峠を越した後のように不思議な爽快感がある。
ただ、唇だけが異様に熱い。舞は、そっと唇に指を這わせた。
「んんっ!」
ただ、指を沿わせただけなのに、敏感な性感帯をいじくりまわしたような、何とも言えない高ぶりが舞を襲う。
トロリと太股を蜜が伝う。
「ど…してっ!?」
理由は分からなかった。
だが、躯が酷く欲情しているのは確かだった。
堪えきれなくなった舞が自身の割れ目に手を伸ばしたとき、襖が開いた。
「…お目覚めですか?」
遠慮なく入ってきた男は、舞の傍らに膝を付くと額に手を当てた。
「顔が少し赤いようですがお加減はいかがですか?」
その添えられた指先が、自分の中でどのように動くか、どうやって自分を絶頂に導くかを舞はよく知っていた。
そして、今の自分がそれをたまらなく欲していることも。
「九木さんっ!」
はしたない願いを叶えて貰いたくて舞は口を開く。が、その望みは言葉にされることなく封じられる。
「楼主様が随分と心配しておられましたよ。先程までこちらに付いておられたのですが」
触れていた手は、呆気なく離され九木は優しく微笑む。