初夏のすれ違い / カラダ編-17
「…でも、ありがとね、嘘でも、しない、って言ってくれて。
あと、話も聞いてくれて、ありがと。
助かった」
しかしサクは「嘘じゃねぇよ」と呟き、照れ隠しに伝票を取ってさっさと席を立ってしまった。
さすがにそろそろ居づらくなってきたのだ。
亜紀子も、慌ててサクの後を追う。
…本当に不思議だった。
相手は自分を脅してくるヤツなのに。
こんなに気が楽になったこと。
こんなに信じられること。
そして、さっきからずっと、サクに触れたくなっていること。
…―ありえない、サクとシたいだなんて…!
どうしちゃったの、あたしのカラダ…
亜紀子は、サクに説明するために感覚をリプレイさせているうちに、いつしか脳内では兄との体験ではなく、目の前にいる人物…サクと、サクに付随するモノ…を妄想してしまっていたのだ。
泣きやんでも劣情は治まらない。
むしろ、泣いたのだって高ぶりすぎていたためかもしれない。
サクに続いて店を出るその一足ごとに、自分が濡れているのを自覚する。
以前に、今の気分に似たことがあったのを思い出す。
三池から助け出されて駅でキスした時と、バスケ部の試合の後にサクを誘った時。
…―あの日は、本当に気持ち良かった…
しかし、サクは振り向いて言った。
「お前、トイレ行って顔洗った方がいいぞ。
そんなツラじゃ電車も乗れないだろ」
まさか今日はこのまま解散なのだろうか。
亜紀子は、思わずサクの服をきゅっとつかんだ。
「…ねぇ、バイク乗せて?」