初夏のすれ違い / カラダ編-12
翌日の部活中も、うっかりバスケ部と鉢合わせして、皆の前でカレシ面したサクに話しかけられはしないか、気になって仕方が無い。
サクに振り回されている今の心理状態では、まともな返しなどできないだろうから。
照れ屋だとかツンデレキャラで済ませられれば良いが、自分で墓穴を掘るような事を漏らしてしまったらかなわない。
とは言え、そんな集中力でも忘れなかったのは…
「結衣っ、ちょっとこっち来て!」
人けの無い場所に引っ張って行き、じっくり念押しする。
「結衣、お願いだから、サクとのことは、何もしないで。
結衣にまで被害が行っても困るし、大ごとにはなりたくないから…。
あたしはまだ、そんな酷いコトはされてないから、ね?」
必死に話す亜紀子に、結衣は複雑そうな顔。
「…でも…」
「大丈夫、一応は付き合ってることになってるんだし、サクはそこまでヤバイコトはしてこないと思うんだ。
…それに…
あたしには、サクを警察に突き出すなんてコト、できないもん…」
「…亜紀子…
…でも、本当に辛くなったら言ってね?
お兄さんとのことも、だよ?
亜紀子を泣かしたら、誰が相手だって許さないんだから!」
「ふふ、ありがと、結衣。
サクに言われたよ、結衣が友達で良かったなって」
「…なにそれ。
まったく、自分では犯罪並みなコトしといて、サクのヤツ…!」
…まぁとにかく、結衣は静観することにしたようだ。
翌日から、毎晩当たり前のようにサクから来るようになった電話は、いつも10分も話さない短いものだ。
そしてその日以降、結衣については何も言われない。
サクは、部活で疲れてないか?とか、帰りが遅いなら送ってやろうか?とかを、電話の最後に付け加えるようになった。
そんな事を言われても、一体何を企んでいるのかと亜紀子は訝しく思ってしまう。
しかし結局、早く兄妹のイヤラシイ話を聞きたいな、と言ってくるから、やはりさっきの質問は次の機会を計っているのだろうと考えるのだ。
そんな事が何度もあって、亜紀子は、サクが自分を好きである可能性は低い…と、苦々しく思いながらも認めざるをえなかった。
今やサクは完全に自分より優位に立ち、毎晩電話しようが付き合うフリをさせようが、サクの勝手なのだ。
自分は、サクの好きな時に抱けるように都合良く動かせる相手…。
亜紀子は、ここ何ヶ月かで何度目かの諦念を、新たに持ちはじめていた。
もちろんその諦めは、無情にも流れゆく時間に対しても感じている。
亜紀子は、部活の最中だけは、悩みを忘れて体を動かすように努めていた。
が、そのせいであっと言う間にサクと会う休日を迎えてしまった。
今日もいたってシンプルなカッコで家を出た。
ブルーのストライプのシャツに、黒いパンツ。
またバイクに乗りたいから…ではなく、オシャレして会うような相手ではないから、が正解。
待ち合わせのカフェに先に着いて、案内された席の場所をメールするとサクはすぐに来た。
まるで入りづらくて別の場所で待っていたかのようなタイミング。
どうやら今日もバイクで来たらしく、厚い上着を手に持っている。