-続・咲けよ草花、春爛漫--8
「ミハル君はわたしと一緒でB組なの。ここにはいないけど、うちの副部長で田平先輩っていう生徒会の人がいて、その人と同じ赤団だよ。函部ちゃんはC・D組だから――黄団ね。御形先輩は?」
「俺は青団だから誰とも一緒じゃないんだー、残念」
「由里菜、どうせならミハル先輩となずな先輩と一緒がよかったな」
ぼそりと呟いてチョコレートを口に運ぶ函部。
彼女の性癖を既に知っているから、その発言自体にはもう突っ込まない。だが、小日向を下の名前で呼ぶなんて、畜生ちょっと羨ましいじゃねーか。
俺なんて友達なのに、“なずな”呼びするタイミングを失ったせいで未だに“小日向”だ。
(しかし、嫌われたわけじゃない……んだよな?)
歓迎会が始まってからずっと、函部からの視線を感じていた。
視線といっても色っぽいものじゃない。
函部は俺をひたすら睨んでいるのだ。
俺が男だったことがそんなにマズかったのか。それとも、昨日御形先輩が何か言ったのか。いずれにせよ、そんな鋭い視線で睨まれたのなら嫌われている、恨まれていると思うのも当然だろ?
努めて気にしないようにしていたが、それはそれで辛い。たまに俺が彼女の方を見やると、さっとそっぽを向いてしまう。
ちらり、と再び函部の方を向いてみると、彼女はやはりさっと俺から視線を外した。
(あれ、やっぱり嫌われてんのか……?)
何なんだ、本当に分からねぇ! 一体俺が何をしたんだ!?
俺は眉根を寄せたままお茶の缶を呷った。
「でも、よりによってこの二人と一緒なんて」
お茶の缶を空にした俺は、函部の言葉に思わず吹き出しそうになった。
いや、若干吹いてしまっていたけれども。
「函部……それっと俺とこいつのこと?」
鈴代がにこやかに蕪木を指しながら言う。
すると函部もまたにこやかに頷いた。
「そうですよ、先輩達以外に誰がいるっていうんです?」
可愛い笑みと共に吐かれる辛辣な言葉はかなりの破壊力がある。
顔を引き攣らせて、それでもまだ笑みを浮かべたまま鈴代が言った。
「心外だなぁ、蕪木はともかく俺のどこが悪いっていうんだ?」
「それこそ俺は心外ですけどね」
同じく顔を引き攣らせた蕪木の言葉に、鈴代は額に青筋を浮かべる。
「……俺ってどうもお前と合わないみたいなんだよな」
「奇遇ですね、俺もです」
再び睨み合う二人。
ぼそりと函部が呟いた。
「だから嫌なのよ男って」
こうして新入部員の歓迎会は、ジュースとお茶だけで滞りなく行われた――ように見えた。
函部と男性陣との間に、奇妙なわだかまりを残して。