バスルーム-3
「そっか、そうだよね。まだ入ったばっかだもん」
「・・・何?ちょっと待て、お前どうして知ってるんだ」
伊緒が俺の前に移動してきたので咄嗟に目線を落とす。
タオルを石鹸で泡立てながら、伊緒は背中の方に戻った。
「あのね、実はさ。お父さんが帰ってくるの待ってたんだ」
「な、なんだと?!」
だから妙にタイミングが良かったのか。俺が風呂に入ってすぐだからな。
「何処で待ってたんだよ」
「トイレ。怖いんだよ、電気点けないと。もうちょい早く帰ってきて欲しかったな」
「・・・風呂場の電気はお前の仕業か」
「あ、やば。消し忘れた、ごめんなさい」
ぺろっと舌を出して言う伊緒。
果たして本当に反省しているのだろうか?
「まっ、まあいいじゃない、誰でも失敗するしさ。それより・・・背中流してあげる」
「こら、誤魔化すな。この間約束しただろう」
伊緒はとぼけて俺の背中をタオルでごしごし磨いている。
最初は痛かったが、直ぐに慣れて気持ち良くなってきた。
「なんだ、意外と様になってるな。筋は悪く無さそうだ」
「ねえどういう意味?なんかやらしいよお父さん」
「そんなつもりでは無いんだがな。お前こそ、いかがわしい事でも考えてるんじゃないのか」
「だって、男の人の背中洗うの誉められても、どんな返事すればいいのよー」
言われてみて、筋が良いという誉め方はそぐわない気がしてきた。
・・・落ち着かなくては。相手はずっと共に暮らしてきた娘なのだ、異性の若い子では無い。
別に意識してしまう必要など無いのだ−
「はい、背中終わり」
「そうか、ありがとう」
「今度は前の方ね」
いきなりタオルで腹を拭かれたので、思わず伊緒の手を掴んでしまった。
自然な流れだったので思わず許しそうになったが、そうしてはならない。
「やめろ。そこまでしなくてもいいからな」
「だって電気消し忘れたから、罰ゲーム。本当は触りたくないけど仕方ないでしょ」
「どういうルールか知らないが、悪ふざけはやめるんだ」
しかし伊緒は俺の言い付けを守ろうとせず、再びタオルで腹を擦り始めた。
止めさせようとしたが背中に柔らかい感触が押し付けられ、下手に動けなくなってしまう。
「ちょっとー、たまってるよ。何ですかこのだらしない物は」
伊緒が腹の肉を摘んで揺らしてきた。
ちょっと力を加えただけで波打つ不摂生の産物は、我ながら情けない。
「お酒呑み過ぎだってお母さん心配してたよ。そりゃね、これじゃあ・・・」
「し、仕方ないだろう。俺だってもう若くないんだ、溜まるものは溜まりやすい」
「・・・へえ・・・」
伊緒は腹を摘む指を離した。
「いい加減にしろ、伊緒。もう気が済んだだろう?さあ、出るんだ」
「まだ終わってないよ。ちゃんと最後までしてあげる」
「最後・・・?おい、頭までやるつもりなのか、勘弁してくれ」
すぐに終わるだろうと戯れに付き合ってやったが、伊緒はまだやるつもりらしい。
もう父親に悪戯して喜ぶ歳でも無いだろうに、どうやらまだ子供の様だ。