異界幻想ゼヴ・アファレヒト-9
「その時に、俺にとってあいつは庇護の対象であって恋愛対象じゃない事も伝えた。それでも結論が出るまでは待つと宣言されてるのに、俺が何をできると思う?」
「いや、その……」
当事者間で既に解決済みの問題に首を突っ込んでしまった事に気づき、深花は少しだけ口ごもった。
「け……結論!結論って何よ!?」
それでも食い下がってきた深花に、ジュリアスは舌打ちする。
「お前、フラウから俺の事を聞いたんだろ?」
「聞いたけど……」
腕組みすると、ジュリアスは言葉を足した。
「なら、俺の出自が捨てたって捨て切れない因果にまみれてるのは知ってるよな?それだよ」
「あ……」
口許に手の平をあてがう仕草で、合点がいった事を示される。
「俺に恋人なり結婚相手なりができるまで、フラウに諦める気はない。けど俺は、愛だの恋だのにうつつを抜かして神機パイロットを引退する気はないからな。俺とフラウの関係が友人・仲間以上になる事はこの先ないし、既にフラウには諦めろと伝えてあるんだからこれ以上に突っぱねるのは不可能なんだ。分かったか!?」
深花が黙り込んだのを見て、ジュリアスは溜飲を下げた。
「言いたい事は吐き出したな?ならさっさとか……」
帰れと言おうとしたジュリアスは、ふとある事に気づく。
そろそろ夜も更け、ずいぶん前に夕食の提供も終わって食堂は閉まっているはず。
なのに深花の表現は、まるで食事が終わってからすぐにこの部屋目指して歩いてきたかのようだった。
「……お前、道に迷ったのか?」
思考の結論を口にすると、深花は明らかにひるんだ顔をする。
カゼルリャ基地は広い。
来たばかりで道に不案内なうえ、夜ともなれば十分な明かりが点される訳でもなくそこかしこに闇の広がる敷地内では、部屋に来る時間が遅くなったのも道理だ。
しかもこの寮と食堂の距離は、割と離れている。
「……帰れとは言えないな」
無理に帰して迷子になられては寝覚めが悪すぎるし、妙な事に出くわして命を落とされるのはもっと困る話だ。
「仕方ない。泊まってけ」
「へ!?」
狼狽する深花を見て、ジュリアスはうんざりした表情を覗かせる。
「この時間に一人で帰れるぐらいに道を知ってるなら、とっとと叩き出してる所だ。だがな、お前は明るい時間帯の基地内すら満足に歩けないほど道に不案内で、俺はお前を送迎してやるほど親切じゃない。ついでに言えば、寮は満室だから空き部屋に泊めるのも無理な話だ。分かったらさっさと寝る準備をしろ」
宣言した後ジュリアスは寝室へのドアを開け、中に入った。
すぐに戻ってくると、片手に持っていた物を差し出す。
「着替えだ。早く着替えろよ」
着替えを受け取らせたジュリアスは寝室に戻り、何やらがさごそやり始めた。
「……」
ジュリアスの言う事に反対したいが、反論できる材料がない。
可能性の芽は潰されているし、夜道を帰るのは正直言って恐かった。
「む〜……」
一声唸った深花は、手渡された物に着替える事にする。
着ていた服を脱ぎ捨てて下着姿になった所でちょっと隣室が気になり、ジュリアスが来やしないかと思って耳を澄ませてみた。
がさごそした物音が止み、居間へジュリアスが顔を出す。
「きゃあっ!?」
「早く着替えろつったろ。部屋の準備はできたぞ」
ジュリアスが玄関の戸締まりを確認する間に、深花は慌てて着替えを済ませた。
どう見てもジュリアスの私物感が漂う、大きめのシャツ一枚である。
肩口のだぼだぼ感や胴のぶかぶかさ、太股半ばくらいまである丈……体格差を、思い知らされる。