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異界幻想
【ファンタジー 官能小説】

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異界幻想ゼヴ・アファレヒト-10

「着替えたな?ならベッドに入れ」
 居間の戸締まりをしながら、ジュリアスは言った。
「……あのなぁ」
 その場から動かない深花を見て、思わず嘆息する。
「寝た相手と一緒に眠るくらい、屁でもないだろうが。変に緊張すんな」
 諭されればその通りだが……男と一緒に眠るなんて事は、幼い頃父親に添い寝して貰ったくらいなのだ。
「それとも、俺が抱っこしてベッドまで運んでやらにゃあならんのか?」
 言いながらジュリアスは、指をわきわき伸縮させる。
「今すぐベッドまで行かねぇなら、おんぶか横抱きかお姫様抱っこか好きなのを選ばせてやる。さあ、どれがいい?」
 皆まで言わないうちに、深花はベッドルームへ駆け込んだ。
「全く……手間のかかる女だ」


 ダブルどころかクイーンと言っても差し支えないくらい広いベッドに、枕が二つ置かれていた。
 真ん中寄りではなく、端に近い所へ二つ。
 使い込んでいるが清潔そうなシーツと、枕元で明かりを点すランプ。
 壁際には収納家具が並び、明かり取りの窓の近くには机と椅子が配置されている。
「だから俺に抱っこされたいのか?」
 ジュリアスが背後に来たせいで深花は飛び上がり、慌ててベッドに近寄った。
 右側のシーツをめくり、体を滑り込ませる。
 ひんやりした感触は、すぐに自分の体温で温かくなった。
 ジュリアスはランプを消すとシーツの左側をめくり、体を滑り込ませる。
「……何もしないからさっさと寝ろ。明日からはダンスの他に読み書きの特訓が始まるぞ」
 それだけ言うとジュリアスは目を閉じ……程なくして、寝息が聞こえ始めた。
 かちこちに固まっていた深花は、しばらくしてからジュリアスに近づく。
 暗闇に目が慣れると、そこには唇をわずかに開けて眠るジュリアスが見えた。
 傍まで行くと、シーツがジュリアスの体温で温かい。
 何となくそれだけで、馬鹿に安心している自分がいた。
 顔の前で手を振ったり目玉をつつく振りをしても全く反応がない事から、本当に眠ったものと思われる。
 深花はさらにジュリアスへ近づき……脇へ身を寄せた。
 ぴったりくっつくと、何だか気分がほんわりしてくる。
 やっぱりそうかと、深花は思った。
 ジュリアスを毛嫌いしていたくせに、くっつくと安堵するのだ。
 神機からの降乗時や、アフターケアが済んで体が離れる時……溶け合った肉体が元に戻る時の寂寥感は、これに起因している。
 全く、身勝手な話だ。
 許可なく体を奪われた事で激怒していたくせに、眠るジュリアスへ勝手にくっついて勝手に安らいでいる。
 気を使ってわざわざ広いベッドの両端に枕を置いたのにこれでは、ジュリアスは浮かばれない。
 でも……隣に占めたこの位置は、温かくて幸せだった。
 フラウの射すくめるような視線が脳裏に浮かんだが、すぐに消える。
「……振り回して、ごめんね」
 呟いた深花は伸び上がり、ジュリアスの頬に唇をつけようとした。
 ぐるんとジュリアスの首が動いて、頬ではなく唇に着地するまでは。
「!」
 しかも眠ったと思った男は実はしっかり目が覚めていたらしく、唇が出会った瞬間に視線も出会ってしまう。
「一体何をしてるんだ、お前は」
 唇が離れると、慌てず騒がずジュリアスは言った。
 どうやら眠った振りをしてくれていたらしいと、遅まきながら深花は気づく。
「あ、あの……」
「くっつきたきゃくっついてていいから、とにかく寝ろ。明日は早いぞ」
「……突っ込まないの?」
 キスしてしまった事には触れられないので、思わずそう尋ねていた。
「突っ込んで欲しいのか?」
 意外そうに、ジュリアスは言う。
「う、それは……」
「どっちだよ」
 とうとう、噴き出されてしまった。
 本人の許可が下りたので、深花は遠慮なくくっつく事にする。


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