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異界幻想
【ファンタジー 官能小説】

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異界幻想ゼヴ・アファレヒト-5

「私は、おばあちゃんがどうしてここから失踪したのか理由を知りたくて、ミルカとして留まる事に決めたのよ!?それが、結婚なんて……!」
「そんな事を俺に言われたって困るが、結婚相手を見つけたくないならレセプションに参加する独身男と一緒にならないよう気をつけろとしか助言できねぇぞ」
 ごくん、と深花は唾を飲み込んだ。
「じゃ、じゃあ、三人のうち誰かと常にくっついていれば……」
 ジュリアスは、再び頭を掻く。
「それは難しいだろうから、マナーを身に付けとけと言ってる。パーティーの間中、俺もティトーも割と忙しいしな。女同士で固まるのも、あまり感心できない振る舞いだとされるし」
 深花は、つい先程聞こうと思った疑問が心の中で頭をもたげたのを感じた。
「ねえ……」
 今度こそ、その疑問を口にする。
「あなたって、一体何者なの?」
 最初から、疑問ではあった。
 恵まれた容姿は、一般市民だろうとまだ納得できる。
 しかし、洗練された物腰や自分を抱く時の妙に物慣れた態度は、どうにも理解しづらい。
「何者って……」
 何故か返答に詰まられてしまい、深花は目を白黒させた。
「……ティトーさんが、自分達の背後関係は割とドロドロしてるって。あなたが頭を下げるより、関係者の首を切らせる方が手っ取り早いとか言ってたし……それなりの立場にある人って事なの?」
 ジュリアスの口を軽くするべく、深花は自分の持っている情報をぶちまける。
「まぁ……俺もティトーも、そういう事になる」
 いかにも渋々といった様子で、ジュリアスは認めた。
「つっても、俺は実家と絶縁してるから……詳しい事は、フラウに聞いてくれ。あいつも当事者だ」
 よほど口にしたくない事なのか、ジュリアスは話を打ち切った。
「とりあえず、身仕度してから談話室に来い。ダンスの特訓を始めるぞ」


 談話室から程近い場所にある小さめの会議室が、四人のために空けられていた。
 軍楽隊の楽士がリュートとフルートのデュエットを奏でてくれる中で、宮中で流行りらしい複雑なステップを延々と練習する。
「慣れてきたみたいじゃないか」
 踊る相手がジュリアスからティトーへ変わった時、そう声をかけられた。
「先生方のリードが抜群ですから」
 ティトーのリードに従って何回か回転した後、深花はにっこり笑って答える。
「それでいい。結婚相手に目されたくなけりゃ、明るく笑ってかわす事だ」
「そこですよ……」
 思わず深花は、ため息をついた。
「侍従長にはあらかじめ頼んでおくから、そこら辺はうまくあしらってくれると思う。君にいきなり引退されたら、デメリットが多過ぎるしな」
「当分、引退する気はありませんよ」
 習い覚えたステップを踏み、優雅にターンする。
「祖母の事を知りたいから……かい?」
「そんな所です」
 答えてから、深花はジュリアスとフラウを見た。
 互いにぴったりと寄り添い、ゆっくり体を揺らしている様はまるでチークダンスである。
 フラウが伏せていた顔を上げ、ジュリアスを盗み見た。
 その表情を見て、深花はぎょっとする。
「あの……ティトーさん」
「ん?」
 体が寄り添った隙に、深花は囁くように尋ねた。
「フラウさんって、もしかしてジュリアスの事……?」
 ティトーも二人を一瞥し、納得したように鼻を鳴らす。
「まあな。フラウにとってジュリアスは、命の恩人だ」
 得心がいかなくて、深花は顔をしかめた。
「フラウさんにとってジュリアスは命の恩人で、でもジュリアスにとっては実家と絶縁するきっかけで……?」
 疑問符だらけになった深花の顔を見て、ティトーはくすくす笑う。
「ちょっとは聞いたみたいだな」
「謎ばっかりで、納得のいく答にはまだ巡り会ってませんけどね……」
 くるん、と体が回転した。
「ジュリアスからはフラウさんに聞け、って言われましたし……」
「その通り」
 回転した体を引き戻しながら、ティトーは言う。
「俺も関わってるが、俺の口からは言いたくないね」
「……分かりました。フラウさんに聞いてみます」



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