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異界幻想
【ファンタジー 官能小説】

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異界幻想ゼヴ・アファレヒト-4

『……ねえ』
 結合を解いて体を脇に横たえたジュリアスへ、深花は尋ねた。
 途端にジュリアスは、怪訝な顔をして起き上がる。
「ウェト、トレジャ?」
 じろっと深花の首元を見たジュリアスは、自分のペンダントを握り締めながら何か言った。
『え……あ!?』
 つられて首元を触った深花は、自分の首からペンダントが失せているのに気づく。
『嘘っ……やだ、どこにやっちゃったのよぉ!?』
「ブワロ!ダレキザズ、ステュルギヤ!」
 パニックに陥りかけた深花だが、ジュリアスの一喝で落ち着きを取り戻した。
「ファリュシオル、デラティアソーノ」
 皺の寄ったシーツの上を、ジュリアスの手が這い回り出す。
 意図を理解した深花はベッドを降り、床を捜し始めた。
 言葉が通じていなくても怒鳴られた時に何を言われたかは何となく分かり、苦笑してしまう。
『うるせぇ、おとなしくしてろ……って所かな』
 付き合いは浅いが、ジュリアスから受けた怒声は『うるさい』『痛くない』『おとなしくしてろ』の三点だけだ。
 今回もそう言ったであろう事は、想像に難くない。
 ジュリアスもベッドを降り、床を捜し始め……程なくして何かを拾い上げた。
 黄色い宝石が揺れる、祖母の形見。
 革のような材質の首紐を指に絡ませ、ジュリアスがペンダントを差し出してきた。
「……どうやらお前には、早急に読み書きを教える必要がありそうだな」
 とりあえず宝石に触れた深花へ、ジュリアスは言う。
「またどこかへペンダントをぶっ飛ばした時に、言葉が通じないと困る」
「うん……」
 深花の手の平にペンダントを落とすと、ジュリアスはばりばりと頭を掻いた。
「基礎体力の向上に技術の習熟に最低限の生活を送れるだけの教育に加えて、これからダンスのレッスンとパーティーマナーを詰め込まにゃあならねぇのか……お前、ついて来れるか?」
 これからは軍属の身分だから、前の三つはまだ分かる。
 しかし、ダンスレッスンとパーティーマナーはどこから降って湧いた話なのだろうか。
 深花のぽかんとした顔に気づいて、ジュリアスは説明を足す。
「ミルカ帰還の時点で王室まで話が上がっていて、お前のためにレセプションを開く事は知ってるよな?」
 カイタティルマートに搭乗しての模擬戦前、確かにそんな話は聞かされていたので深花はこっくり頷いた。
「普通そういうのは、ダンスが付き物なんだよ。主役のお前が恥かかねぇ程度にステップの練習をしておかないとどうなるか……分かるだろ?」
「う……ん」
 どうやら男二人はそれなりに踊れるようなので、単純に自分に恥をかかせないための訓練である。
「ま、ダンスに関してはフラウも練習しなきゃならねぇから、何とかなるだろ。問題は……パーティーマナーだな」
「例えば?」
 不安を滲ませた深花の声に、ジュリアスは片眉をしかめる。
「お前がどういう人生を送ってきたのか知らないから、一概にこれとは言えんが……嫌な質問してくる奴をうまくあしらったり求婚してくる奴を断ったりできないと」
「ちょっとー!?」
 突拍子もない話に、深花は悲鳴を上げていた。
「きゅきゅきゅきゅきゅ求婚て!?」
「そこは文化の違い、だな」
 やっぱり知らなかったかと思い、ジュリアスは分かりやすく説明する。
「ラタ・パルセウムじゃこっちより遅いみたいだが、リオ・ゼネルヴァじゃ成人年齢は十五歳だ。帰還したミルカは適齢期の未婚女性で、しかも王室がレセプションまで開こうとする重要人物。外見もまあ悪くないし、結婚したがってる独身男にとってこれほど美味しい条件はねぇな」
「冗談じゃないわよ!」
 深花は本気で憤慨する。


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