〈利益の卵〉-20
『お母様には伝えましたが、美優ちゃんを私どもで育てたいと思いまして……』
つらつらと、慣れた言葉遣いで男は話し、それを聞いている母親はフンフンと頷いている。
どこか美優を置き去りにしたまま、話しだけがどんどんと決められていく。
『で、今日、これから美優ちゃんに、ステージに立ってもらいます。作詞家や作曲家の先生達に、生の美優ちゃんを見てもらって、曲を作って貰おうか、と』
「き…今日、ですか?」
美優が驚くのも無理はない。
自分の意思などに関係無く、自分の知らぬところで勝手に物事が決まってしまっていたのだ。
『実は、もう皆さん集まってるんです。美優ちゃん待ちの状態ですよ』
『凄いでしょう』と言わんばかりに、男は笑顔で美優の顔を覗き込んだ。が、美優の表情は固まったままだった。
こんな状況を作られていては、どんな理由があっても断れるはずがない……答えは一つしか残されていないのだ……。
『美優ちゃん、あのドアの向こうが更衣室です。さあ、着替えましょ』
渋々、美優は歩き出し、部屋の右側にある更衣室のドアを開けた。
その中には大きな鏡とクローゼット、そして、綺麗で若い女性が美優を笑顔で迎えてくれていた。
『緊張しなくてイイのよ、あなたは選ばれるくらいに可愛いんだから。もっと自信持って』
少し化粧の濃い女性は、20代後半だろうか。
香水の香りが少しキツいが、柔らかな笑顔と話し口が美優の心を解していった。
『これがあなたのステージ衣装よ』
「……可愛い……」
マネキンに着せられていた衣装は、今までの撮影でも着た事がないくらい、煌びやかな物であり、その差し出された衣装を纏っていくと、美優の瞳はキラキラと輝きを増していった。
純白の半袖のYシャツは、その袖口をフリルで飾り、胸元には大きな赤いリボンが彩りを添えていた。
赤と緑とのチェック柄のフレアスカートも、コルセットのようなベルトと一体化しており、美優の細いウエストが更に細く見え、見事なくびれが生まれていた。
そして、そのフレアスカートの丈は短く、容易く下着が見えてしまいそうだ。
足元は白いロングブーツで固め、高めのヒールは美優の長い脚を更に長く見せていた。