悶々ラバーズ-1
――率直に言うと。
私、水澄 小羽はニヤニヤしていた。
場所は私の部屋、時刻は夜も深まった午後10時過ぎ。
日時的には――吾妻と付き合い始めた、当日である。
「…………にへへっ」
ベッドの上に寝転んで、枕に顔を押し付けながら――それでも頬が緩むのを抑える事が出来なかった。
だってだって、何と言ったって、吾妻と付き合う事になったのだ。
そりゃまぁ私だって多少なりとも吾妻の事を意識してなかったと言えば嘘になるんだけど、でもまさか今日告白されるなんて思ってなかったワケで……。
いざ告白されてみて、こんなに嬉しい気持ちが止まらなくなるなんて思ってもいなかった。
ベッドの上を意味も無くゴロゴロしてみたりしながら、ニヤニヤが止まらない。
……いやいや、さすがにちょっと花も恥じらう女子高生として、この緩みっぷりは如何なものだろうか?
勝って兜の緒を締めよ、と昔の人も言っているのだし。気を引き締めねばっ!
「…………………」
ちょっと真剣な顔になって黙ってみた。
「…………にゅへへっ」
五秒ともたなかった。
大丈夫だろうか私の自制心。
「……お姉ちゃん?今日はなんかすごく気持ち悪いけど、どうしたの?」
「え?何か言った?」
「……いや、いいよもう」
声のした方を見ると、部屋の反対側にあるもう一つのベッドに座る妹が、どこか諦めたような冷めた目でこちらを見ていた。
私と妹――橙藍(とうあ)ちゃんは二つ違いの姉妹であり、今でも部屋を共有して使っている。
「何かいい事でもあった――のは聞くまでもないか。何があったの?」
「何かって……な、何もないよ。ないない」
「嘘」
「う、嘘じゃないってば」
「……………」
「……えぇと。ちょっと、いい事とかそんな感じの事が、あったような無かったような……?」
「………お姉ちゃん?」
「ごめんなさいイイ事ありました嘘つきました」
妹に気押されてあっさり白状する姉。
だって何か妙に迫力あるんだもんこの子!
昔からあんまり笑わないクールな子だったけど、中学に入ってからというものさらに笑顔頻度が減ってきた気がする。
おまけに姉である私から見ても分かるくらいに綺麗な顔立ちをしてるせいで、ちょっと初対面の人から怖がられるくらいに威圧感のある妹になってしまった。
いやまぁ、さすがに私は怖がらないけど。
「まぁその、いい事っていうかなんていうか……」
「宝くじでも当たったとか?」
「いや、買ってないってば。えぇと、その……」
「なんか歯切れが悪いわね。ホントに何があったの?」
いよいよ訝しげに眉をひそめる妹に、仕方なくホントの事を言う事にした。