-咲けよ草花、春爛漫--2
「ていうか、値上げします。そうします」
「最初に価格設定したのはミハルだろ?」
「ヨシハルだっての。だって、そんな、乳触らせるくらいなら食券でもいいくらいだと思ってたんだよ」
それは俺の願望もあったのかもしれない。食券払って女の子のおっぱい堪能できればなーなんてさ。
けれど、自分がされる側になってようやく気付いた。
「いや、お前は本当ヤリすぎ。一葉さんでも安いくらい」
「俺みたいないい男捕まえて何ということを言うんだ。気持ちよくさせてやってるじゃん」
「アホか! 俺はね、こんな身体になっても女の子が好きなの」
と言いつつもやはりあんな手付きで触られたら感じてしまうのも事実だった。
知ってか知らずか俺の足にいやらしく触れてくる鈴代。そして俺はそんなこいつを足げにしながら、大きく溜息をつくのだった。
俺、芹沢美春(セリザワヨシハル)はこの七ノ森学園高等学校の二年生。
東京郊外にある、緑に囲まれた古めかしい風貌の学校は一風変わっていて、生徒の得意分野を伸ばすという方針から授業の半分は選択制になっている。
進学にあまり力を入れていないせいで、昨今の受験戦争の中、生徒数は減っていると聞くが、それでもここの自由な校風に憧れる学生は決して少なくはない。もちろん、俺もそのひとりだ。
校風は様々なところに表れていて、例えば部活はいい例だ。部員数五名以上であれば自由にサークルを立ち上げることができ――申請して認められれば、部として活動できて部費も出るらしい――、部・サークルの活動が盛んになる新歓や文化祭時期は学校全体がそれを支援してくれる。
一年の春、俺は文学部に入部した。入学当初は部活なんて入らなくてもいいだろうと考えていたが、周りは帰宅部を選択する奴なんてほとんどいなかった。部活が盛んな学園だ。勧誘もかなり力を入れてやっている中、何となく帰宅部にするとは言えず――まあ、つまり周りのノリで入ってしまったわけだ。
文学部に決めたのは、単純に文学や詩歌が好きだったからで、特に作品を創りたいだとか評論したいだとか、そういったことには興味がなかった。
だからこそ『文藝研究会』への転部を決めてしまったのだが。
それは秋だった。
学園祭の季節、俺はふらりと文藝研究会のブースへ立ち寄った。学園に文系の部やサークルは文学部だけだと思っていたから、へえ、こんなサークルもあるんだと軽い気持ちで文藝研究会の作品を手に取って見てみた。
正直に言って、作品のレベルは文学部とは雲泥の差。もっともあちらは積極的に賞を獲りに行く連中ばかりだからその熱の入れようは半端ない。おそらくこの文藝研究会は、文芸は好きだけれど本格的に作品創りがしたいわけではない奴等が集まっているのだろう。……俺みたいな。
『芹沢君、文藝研究会に入らない?』
冊子を手にしていた俺にそう声をかけたのは、同じクラスの小日向(コヒナタ)なずなだった。
栗色の柔らかそうな髪を揺らし、にっこりと微笑む。
『へ?』
『小説とか詩とか、興味あるみたいだから』
屈託のない笑みに思わず顔を赤くして頷く俺に、小日向は言った。
『まあな。でも俺、一応文学部に入ってるんだ』
『あれ、そうなんだ』
彼女は意外そうな顔をする。