百獣の女王 U-4
俺は彼女に向き直った。
不思議だった。
彼女の金色の瞳は真っ直ぐ俺に向けられていて、それでいてとても優しそうな微笑みを浮かべている。
もしかしたら、俺が気付かなかっただけで、彼女はずっと俺に微笑みかけていてくれたのかも知れない。
太陽のように輝いていて、ライオンのように凛々しい。
そう思っていた。
けれども、こうして見てみると、彼女は本当に女性的なのだ。
私の名前は、どんな名前だと思いますか?
彼女が俺にそう言っていたことを思い出す。
彼女の名前。
俺は考えた。
長ったらしいものではないと思う。
ましてや気取った感じでもない。
キリッとしてそうな名前は、違う。
綺麗な名前は・・・・・・というかそもそも西洋人の名前なんて咄嗟に出てこない。
俺に考えられるのは、どこにでもありふれたような平凡なものが精々だ。
俺はふと閃いた。
どこにでもありふれた名前。
案外そんな感じなのかもしれない、と思った。
例えば、
「マリア」
考え付いた名前がするりと俺の口から流れた。
「マリア?」
彼女が俺に聞き返した。
「ああ、そう。そんな名前なんじゃないかなって、思った」
マリア
女性らしい名前だと俺は思っている。十中八九間違っている名前の筈だが、俺が今彼女に抱いている印象に似合っているように思えた。
「マリア・・・・・・」
彼女が俺の言った名前をつぶやいた。
「・・・・・・・・・」
やっぱり間違ってるんだろうな。
俺はそう思いつつも、不思議と恥ずかしさや決まりの悪さを感じていなかった。
彼女の反応を待とう、と俺は何も考えないように努めることにした。