百獣の女王 U-2
「貴方のお名前は、何と言うのですか?」
貴方のお名前は何と言うのですか? 彼女は俺にそう言ったのか?
貴方のお名前、つまり俺の名前だ。彼女は俺の名前を聞いている。
「真村、草太郎といいます。真実の真に集落の村、雑草の草に太郎で真村草太郎です」
そう自己紹介したところで俺はあれ? と思った。
隣に座っている彼女は明らかに西洋人なのだ。あまりにも綺麗な発音で日本語を話していたので今の今まで気付かなかった。
俺は懇切丁寧に、というか半ば勢いで自分の名前を説明したのだが、実はとんでもない蛇足だったのではないか?
「真村、草太郎」
そんな俺の不安をかき消す様に、彼女が俺の名前をつぶやいた。
「草太郎」
今度は苗字を抜かした、俺の名前を口にした。
そして、
「草太郎」
ドキリとした。彼女がもう一度俺の名前を言ったのだ。
ハッキリと力強く、それでいて優しいような、温かいような、そんな声に促されるように俺は彼女の方へ目を向けた。
そして俺は彼女の真っ直ぐな視線に釘付けになった。
彼女の金色の瞳は髪の毛に劣らず綺麗だった。
「草太郎」
彼女が俺の名前を言う。
「私の名前は・・・・・・」
彼女が俺に、
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・?」
名前を言おうとしたのだろうか?
私の名前は、
彼女はそう言って、黙り込んでしまったように見える。
・・・・・・本当にそうだろうか?
彼女の瞳は相変わらず俺を捉えている。その目に揺るぎはない。