今までで最も長い二日間1-1
「ねぇ、これ貰ってもいい?」
私は投稿小説を唯に向けた。唯は私の方を見て、
「いいよ。由貴に見せるために持って来たんだから。欲しいならどうぞ。」
「ありがとうね。唯。」
私は投稿小説を四つ折りにして鞄に入れた。
「そんなのどうするの?」
唯が不思議そうに聞いて来た。
「へへへ....ちょっとね....」
別にこれといった特別な理由があった訳じゃない。ただ記念に欲しかっただけ....私はこれまで告白された事が無い。中学校の卒業式の日ふざけたような告白を受けた事はある。しかしそいつは私の前に別の娘に告白していた。それを私は偶然見てしまった。だからその告白は私の中では無かった事になっている。この小説に書かれている事は、ただ私との事を使っただけなのだろう。そんな事はわかっている。彼が私に特別な感情を持つなんて考えられない。私も彼に特別な感情がある訳じゃない。しかしこんな風に思われてみたい。そう思うのも事実である。この小説に書かれている事は架空の世界の事だけど、私へのラブ・レターそう思っても不思議じゃない。そんな内容だ。だから私は記念に欲しかっただけ....。本当に、ただそれだけ.....だった...その時は....。
「ネェお昼どうする?」
時計を見ると、1時過ぎだった。
「そうねぇ、ファミレスにでも行く?」
「アタシはそれでもいいよ。」
唯が同意してくれたので、私達はファミレスに向かった。
「アッ私前のバイト先に寄っていきたいから、先に行って待っててくれる?」
ファミレスに向かう途中で唯に声を掛けた。
「別にいいけど、何で?」
「ちょっとね。」
唯は小説の事はもう頭に無いようだった。私は聞いてみたかった。何故小説のモデルに私を使ったのかを....。
「待っててね。」
私は軽く手を振り唯と別れ前のバイト先へと向かった。
唯と待ち合わせたファミレスに入ると、奥の方で手を上げている唯の姿が見えた。唯の方へと近づいて行くと、
「由貴、どうしたの?」
数十分前の私と違う顔つきをした私を見て唯は驚いたように言った。私は唯の前の席に座り、
「どうしよう.....」
そう呟いた。
「由貴、何かあったの?」
チラッと唯を見た後、また視線を落として、
「えっ....うん....」
「由貴....」
「唯の言った通りだった....」
「えっ?何が?」
「彼に....好きだって言われた....」
「えっ?ええぇっ!!」
大声を上げた唯に、
「ちょっと声大きいよ。」
「ゴメン。ゴメン。どういう事なの?」
唯は身を乗り出して聞いて来た。
「私....どうして私を小説に使ったのか知りたくて....それで聞きに行ったの.....」
「それで投稿小説を?」
「うん....」
私は頷いて、それから顔を上げ唯の顔を見た。
「私....彼を店の外に呼び出して、そしてこれを見せたの。」
唯の前に投稿小説を置いた。
「彼は何と言ったの?」
「ゴメン。迷惑掛けたよね?って.....」
「由貴はどう答えたの?」
「別にそんな事無いって....そうしたら、感想を聞かれて....少し嬉しかったかな?って....」
「嬉しかった....って...由貴!!あんた何考えてるの!!」
「だってぇ....」
「由貴!!」
「だってぇ、本当に、少し嬉しかったんだもん...例え架空の話だとわかっていても....」
「由貴.....」
「唯は何度か告白された事あるだろうけど....私は....」
「またそんな事.....由貴!!あんたは自分を卑下しすぎなのよ。」
「でも....」
「でも....じゃ無い!由貴は可愛いよ。何度も言ってるけど、由貴の笑顔はすごく可愛いよ。これお世辞なんかじゃ無くて、本当にそう思っているんだからね。アタシだけじゃ無くて結花姉ちゃんもそう言ってるんだからね。」
実際唯や結花さんは何度かそう言ってくれた事はある。そう言われると嬉しいけど、少し自信を持てない自分がいる。それも事実だった。