百獣の女王 T-6
「じゃーねー」
すっかり眠気の取れた綾菜が上機嫌で俺に手を振っていた。
「じゃーねー、じゃないだろ。このバッグお前の! ていうか引き出物も!」
俺は当然のように持たされていた綾菜のぶんの引き出物とバッグを掲げて見せた。
「草太ん家に置いといて、後で取りに行くからー」
「いや、家の鍵とか財布!」
「の〜ぷろぶれ〜む」
綾菜は笑顔でポケットから財布とでっかいネコのキーホルダーを取り出した。
俺に綾菜を止める術はなかった。
「男のとこに行くつもりだな」
長い付き合いだから、それくらいのことは分かる。
「どうしようもない奴」
アイツも俺も。
「はあ」
いい加減、見切りをつけなさい・・・・・・か。
良子姉さんの言葉が蘇る。
正直なところよく分からなくなっていた。
小学生の時、隣に引っ越してきた時からずっと好きだった。
ずっと好きで、試すような真似をしてでも気持ちが知りたくて。
好きなんだから仕方がない。
あの時は啖呵を切るように言ったが、本当にそうなんだろうか。
何か、好きだと言う気持ちが麻痺してきているように思えてきた。
「ずっと好き、か」
俺は溜息をついた。
最近、俺は家のドアを開けるのが楽しみになっていた。
ドアを開けると、玄関先に黒い猫がちょこんと座って俺を出迎えているのである。
「ただいま」
挨拶をすると、黒猫はひょいと居間への道を開ける。
相変わらず不思議なほど知性を感じさせる猫だった。
着替えて居間でくつろいでいると、そう言えば引き出物ってなんだろうと気になった。
袋から取り出して包装を破いていると、俺の隣に黒猫がやってきた。