百獣の女王 T-14
「キッツイよなぁ」
俺は誤魔化す様に言った。
「さすがに、堪えたよなぁ・・・あれ」
綾菜は何気なく口にしただけなんだろう。
俺は綾菜に何を言われても平然としているから、だから綾菜もついそんな言葉を出してしまったんだろう。
似たようなことは過去に何度かあった。
だから今度もまた、メールなりなんなりで謝ってくれて、それで、いつもの毎日が、いつものように続いていく。
何も・・・・・・変わらないさ。
何も変わらない。
「悲しい人」
俺は息をのんだ。
綺麗な・・・そうとしか表現できない声が聞こえたからだ。
「だから、どうしようもなく美しいのね」
俺は声に促されるように頭を上げた。
「あ」
俺は衝撃を受けた。
俺の目の前に、あまりにも綺麗な人が居たからだ。
晴天の霹靂、とはこういう時に使う言葉なんだろう。真夜中に突然、太陽が現れたような光景。
その人は、とてつもなく綺麗な女性だった。
その人の髪はまるで太陽のように輝いていた。
その人の瞳はまるで太陽のように力強かった。
「ぁ、え・・・・・と」
俺は何がなんだか分からず、壊れたラジオのような酷い声しか出せないでいた。
その人はそんなしどろもどろになった俺をずっと見つめている。
どうしよう。
どうすればいい?
グルルルルルッ
突然、空気を引き裂くような音が鳴り響き、俺の身体を震わせた。
な、なんだ?
俺は驚いて反射的に辺りを見回した。
「あ・・・お前、」
黒猫が居た。
俺から少し離れたところで、いつものようにちょこんと座り込んでいる。