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百獣の女王
【ファンタジー 恋愛小説】

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百獣の女王 T-11

嫌なことがあったからか、今日は仕事が終わるのが遅く感じた。

駅前の百貨店で少し高値の豚肉を買った俺は駅の改札口まで来て、そこでいつものように着飾った綾菜の姿を見つけた。

「・・・・・・」

誰かと待ち合わせをしているのだと、すぐに分かった。

俺は声を掛けようかどうか、迷った。

どうしようかと固まっていると、ふいに綾菜が手を振った。

待ち合わせの相手を見つけたんだろう。

俺はいつの間にか強張っていた肩をなだめるように深呼吸をした。

綾菜に見つからないように改札をくぐろう、そう思った時、俺は凍りついた。

綾菜が待ち合わせ相手の腕に抱きついた、その相手が左藤さんの上司の兵藤だったからだ。

「え?」

俺は自分の目を疑った。

綾菜が兵藤に甘えるように笑っている。兵藤は綾菜に甘えられてまんざらでもない、そんな余裕のある表情を浮かべてから自然な動作で綾菜にキスをした。



昨日彼女ができたばかりでね。



今日兵藤がさりげなく言った言葉を思い出す。

おいおい、綾菜のことだったのかよ。

俺は苦笑いすら浮かべることができない。

「あ、」

2人が腕を組みながら、こちらに向かってくる。

どこかに行かないと。

咄嗟に逃げ道を探そうとして、身体が全く動かないことに気が付いた。

綾菜が近づいてくる。

綾菜が、

俺に気づいた。

「あ!」

綾菜が俺を見て驚いた。

綾菜につられて兵藤も俺に気が付いた。

俺は何も考えられなかった。

「誰だ? 綾菜の知っている人か?」

兵藤が綾菜に聞いた。

綾菜は俺を見て、それから兵藤を見て、



「ううん。全然知らない人」



あっさりと、そう言った。




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