どこにでもないちいさなおはなし-8
「ジャーーーック!!」
驚きを隠せない顔をして彼女は浜辺に立ち尽くし、少年の名を呼んだ。
少年は、心が痛むのを押し戻しながら、母親に向かって叫んだ。
「母さん、ごめん!!でも、俺、会いたいんだ!!イヴ様に!!!聞きたいことが、あ
るんだ!!」
彼は小さくなる母親に大きく手を振りつづけた。
見えなく、なるまで。
さて、諸君。
ここで今日の課題となる異種族間共存問題について少し説明しよう。
時事問題なのだから、眠らないで聞くように。
事の始まりはこの世界の国々の仕組みにあったのかもしれない。
諸君も知っての通りこの世界にはたくさんの島が浮いている。
その島々は数えきれぬ程あり、無人島から大きいものまで多数に及ぶ。
あー……、現在の世界公認地図、キメール・ド・イヴ発行の世界共通図第382版では、大きな島は全部で五つ、細かい物が百と四ほどある。
細かい物は人―……と言っても巨人族ではなく、エルフや一般的な大きさの種族―が一人立てる程度から、村があるものまで、色々あるのだが、それらの多くに国や村、町がある。
世界五大島には主要国家があり、5大国家と呼ばれておる。
イヴ様がいらっしゃる中央国家のキメール・ド・イヴ
有翼族が束ねる国家、ヤール
浜辺が一番綺麗な水中族の国家、ラー
耳が尖ったエルフが住む国家、メリーガーデン
異種族が集まり強い者が王になる国家、ルルビー
諸君も一度は行ってみたいと思う国があるだろう。
世界の人々はこの五大国家に一度は住んでみたいと思ってやまないのだ。
以前にも話したと思うが、この数多くの島々や国々に、数多くの種族が住んでいるわけで、つまりは、最初から存在していた基本種族よりも強い力を持った種族もいるというわけである。
彼らにしてみれば……、ここだけの話、イヴ様という存在を快く思わぬ者も、いるわけで。
事の発端は、ルルビーの王が、イヴ様に詰め寄ったところから、始まる。
それは世界の人々の共通の疑問。
口にするのもタブーだったはずの、疑問。
「なぜ、イヴは、特別視されているのか」
だったようだ。
第3467代目のイヴ様はその疑問に即答する事が出来なかった、というのが、専ら噂されている事で、真偽のほどはわからぬが、かなりイヴ様に近い者から聞いた話では、大方、本当らしい。
ルルビーが言い出したこの問題―言い出したのは定例議会であり、五大国家で、様々な議論が交わされる場―に、他の国家も半ば身を乗り出したというわけだ。
元々イヴ様の座につきたかった各国家の代表はあわやルルビーに荷担しようという流れになった時、イヴ様は「異種族間共存法」なるものを、提案した。
まさに、イヴ様にとって、それは苦渋の決断だったに、違いない。
では、次回は、美味しい料理をつくるために、を課題にする。
各々予習してくるように。