どこにでもないちいさなおはなし-7
上等な上着を着たカエルはポケットをまたひっくり返して中身を出します。
ふたつ転がった飴玉を指差して、少女に言いました。
「君は、どっちがいい?」
少女はじっと飴玉を見たまま、首を傾げました。
「もしかして、くれるの?」
上等な上着を着たカエルは目をまぁるくして、驚きます。
「そうさ。だから、どっちがいいって、聞いたんだ」
少女は嬉しそうに笑って、ありがとうと言い、桃色の方の飴玉を取りました。
「ぼくも思うに、そっちの方が、美味しそうだと思ったよ」
上等な上着を着たカエルは目を細めて笑って、残った緑色の飴玉を取ったのでした。
そんな二人のやりとりを聞いていた白髪の老人は、後ろを振り向かずにしわがれた声で話しかけました。
「お嬢さん達は一体どこから来たんだい?」
少女と上等な上着を着たカエルは、馬車の走る音で少々聞こえにくくはありましたが、その問いを二人そろって老人の方を見て聞きました。
二人の顔は飴玉の分だけ片方の頬が出っ張っているのでした。
「わからないの」
少しだけの沈黙をやぶって答えたのは少女でした。
上等な上着を着たカエルに目配せをしてから、答えたのでした。
上等な上着を着たカエルは頷きました。
白髪の老人はしばらく黙ったあと、
「そうか……」
と、呟きました。
少女は「何も覚えていないの」と、続けたほうがいいのかと思いましたが、老人が何も聞かないのでそこで話を止めました。
馬車からはだんだんと建物に宿る温かい光がちらほらと見えてきました。
二人は少し背伸びをするように上体を起こして、それを眺めていました。
耳の尖った少年はもうすっかり大きくなっていた。
彼が慕っていた祖父はすこし前に大気になっていた。
彼の自宅から少し離れた浜辺で、彼は側の茂みの中から小さな舟を出していた。
側には古い物と分かる鞄が置いてあり、それはパンパンに膨れ上がっていた。
彼はとても焦っていて、舟を海へと運んだ。
オールを掴み、足をかけた時、茂みのずっと向こうから母親の声が響いた。
「ジャーーーーック!!どこなの!!」
彼はその声から逃げるように、舟に乗りこみオールで漕ぎ始める。
波の助けも借りて随分と進んだ時に母親はようやく浜辺に辿りついた。