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どこにでもないちいさなおはなし
【ファンタジー 恋愛小説】

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どこにでもないちいさなおはなし-54

マイティは書き終えるのを見るとペンを受け取り荷物の中に戻しました。それからティアンを見てじゃあなと呟きました。

「……本当に、これしかないの?ジャックとマイラが来るのを待たない?」

リールはしゃっくりを繰り返しながらそうマイティに尋ねましたが、マイティは首を横に振りました。

「大丈夫。二人は分かってくれるさ。三人しかイヴ様の命を受け命を永らえた者は居ないんだから。……ただ、ひとつだけ頼んでいいかい?」

リールは涙でべしょべしょの顔で頷きました。マイティは困ったように笑いながらその涙をふかふかの手で拭ってあげました。

「二人に……先に行って待ってるから、役目を終えたら必ず一杯やろうって伝えてくれ。ほら、そんなに泣くと可愛い顔が台無しだ」

マイティが片目をつぶり、リールは自分の袖でも涙を拭いました。それから両手を合わせて小さく言いました。

「マイティ、本当にありがとう。母様の分もお礼を言います。……もうそのふかふかの手で撫でて貰えないと思うと悲しくて寂しくて、本当に辛い」

浮かんできた涙がまた頬を伝いました。マイティは胸が締め付けられる想いでそっとリールの頬に自分の手を当てました。

「それなら貴方様が望む通りに最後まで貴方様の頬を触れていましょう。……貴方様を本当に大事に思っていました。それはこれからもずっと変わりません。ずっと見守っています。だから笑ってください。安心して眠れるように」

リールはその手に頬を摺り寄せ、最高の笑みを浮かべました。そしてマイティの目をじっと見つめたまま短く呪文を唱えて両手の間から黒い蝶を出し、そっとマイティの額につけました。マイティは苦しそうに顔を歪めましたがずっとリールを見ていました。それから段々と姿が縮んでいき、リールの頬を触っていた手もあっという間に無くなって、一羽の兎になりました。兎は上を向いて首を見せ、リールはその首に先ほど書いた手紙を括り付けました。兎はリールの方をじっと見てからメリーガーデンの城に向かって跳ねて行きました。
兎の姿が消えると残されたマイティの服を抱きしめてリールは声を殺して泣き始めました。それは止まる事無く涙は後から後から溢れてくるのでした

 それからしばらくしてやっとジャックとマイラは二人の元に辿り着き、マイティの衣服に縋り付いて泣くリールを見つけたのでした。マイラはリールを後ろから抱きしめ、自分は泣かないようにぐっと我慢していました。ジャックは冷静にティアンを起こしジャックが背負っていた荷物を自分が持ちました。そのすぐ後に光の壁はまっすぐにリール達の元まで伸びました。そしてその先端には位の高いローブを纏った術氏達が立ち、リール達を見ると一斉に頭を垂れ、跪いたのでした。


 リール達は光の壁を開けてもらってそのままメリーガーデンの土地へ入りました。ただリールはジャックに抱かれたまま、マイティの服を握り締めていました。本来なら怒らなくてはならないのですが、ジャックにもマイラにもそれは出来ませんでした。マイティも暗い顔をして最後から着いてきていました。

メリーガーデンの城に入るとすぐさま侍女が各々に付き、別々に沐浴場へと案内されました。リールには数十人もの侍女がつき、リールは温かい湯に浸かる時も涙を流したままでした。やがて用意されていた新しい衣服を身に着け、髪を結い上げられると、そこにはイヴ・ネーリアにそっくりな少女がいました。
広い立派な部屋で飾りを身に纏ってもリールは涙が止まりませんでした。頬を涙が流れる度に新しい上質の絹の布で涙を侍女が拭い、頭をその度に下げました。やがて扉がノックされ正装した大臣が迎えに来ても涙が枯れることはありませんでした。


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