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どこにでもないちいさなおはなし
【ファンタジー 恋愛小説】

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どこにでもないちいさなおはなし-51

「あの区切られている所だけがメリーガーデンなの?周りはルルビー?」

マイティが荷物の重さに耐え切れず座り込みながら首を振りました。

「いいや、違うさ。本当はあの森とこの山はメリーガーデンだけどね、あそこの女王は頑固だから自然は自然の物だって言ってわざわざ狭くしてるんだ。つまりこの辺りは中立の土地って事だ。今まではそれでもメリーガーデンの物だって認識があったけどなぁ、今はこんなになってるからどうだか分からないな」

ティアンはマイティの言葉にふーんっと頷きました。マイラは皮袋から水を飲むと残りをマイティに放り投げ、マイティもそれをごくごくと飲み干しました。

「さて、行こう。あと少しだ。中立だったからこそ誰がいるか分からない。今日はなんとしてでもメリーガーデンに行かないとね」

ジャックはみんなを急かし立ち上がらせまた歩き始めました。
メリーガーデンはもうすぐでした。
やがて山がを降りて森の中に入りました。森はシンと静まりかえっていて聞こえるのは五人の足音だけでした。
突然マイティが立ち止まり鼻をぴくぴくと動かしました。そこはメリーガーデンのすぐ側まで来た所でした。それから耳もぴくぴくと動かして、はっとしたようにリールの腕を掴みその歩みを止めました。ティアンもリールが引っ張られた事により後ろに倒れ尻餅をつきました。その音で前に居たマイラとジャックも足を止め振り返りました。マイティは口元に人差し指を立てて首を振りました。みんなは頷くとティアンが立ち上がってからマイティの側によりました。ジャックがマイティに辺りを気にしながら囁きました。

「どうした」

「可笑しいと思わないか。誰も居ないんだ、この森」

リールとティアンは首を傾げマイラも辺りを見回しました。

「夜だから歩いてる人は居ないに決まってる。だけどオレ達以外に誰も居ない。梟や鼠も」

ごくりとマイティの喉が動きました。ジャックは剣に手をかけました。

「ここはメリーガーデン領地の中立地帯。自然がどこよりも残っているのに誰も居ない。それに……」

髭をマイティが動かし言葉を続けようとした時にマイラが先に口を開きました。

「風も、止んでるねぇ」

マイティが頷き、ジャックは剣を抜きました。それはマイティの持つ松明にキラリと冷たい光を放ちました。


 「えぇい、忌々しい」

メリーガーデンの王座では女王が握った拳で肘掛を叩きつけました。大臣達も一様に苦々しい顔をしていました。光の壁を作っている術氏から妖精を通じて連絡が入ったのはつい先ほどの事でした。

壁の向こうにルルビーとヤールの兵士が大勢やってきて囲んだ、と。

鎖国を宣言し、完全中立をしている今彼らと争う事は出来ませんでした。もしそうなったとすれば確実にメリーガーデンは滅びてしまうからでした。

「イヴ様が来ているというのにっ」

噛み締めた唇の奥から搾り出すように女王が呟き、大臣達は初めてその事実を知りあちこちでため息のように息が漏れる音がしました。

「せめて場所が分かっていればこちらにも打つ手があるのですが……」

メガネをかけた金髪の尖った耳の背の高い男がそう言いましたが、女王は首を振りました。


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