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どこにでもないちいさなおはなし
【ファンタジー 恋愛小説】

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どこにでもないちいさなおはなし-52

「我が国からそれを出すのは不可能だ。……国民を誰一人として危険に晒す訳には行かぬ」


 「風が、止まった……?」

リールは辺りを見回しました。その時、背後の茂みが音を立てました。マイラとジャックとマイティは素早くリールとティアンを自分達の背後に隠し、三人で輪を作るように立ちました。

「しゃがんでいろっ」

ジャックがリールとティアンにそう言い、じっと三人は茂みを見つめました。すると槍を持ち血走った目をした男がギラギラと睨みつけながらこっちを見てにやりと笑いました。

「……やはり、そういう事か!」

ジャックが走りその男に向かって切りつけると、男は胸元からラッパを取り出し思いっきり吹きました。音は静かな森に高らかと響きました。
マイラは目を見開いて両手を合わせて呪文を唱えはじめました。マイティはリールとティアンを担いで走り出しました。

「だぁぁっ!」

ジャックは舌打ちをしながら男に切りつけ、男は右肩からばっさりと切られ二つに分かれました。血がジャックの白い鎧を汚しました。死んだ男の背後から足音が近づいて来ました。それも無数の足音でした。

「マイラ、行くぞ!」

剣を持ったまま顔に着いた血を拭うとマイラの脇をジャックが走り抜けて生きました。マイラは大きな蝶を作ると側にあった木々にそれを飛ばしました。鱗粉を蝶が散らして辺りの木々に吸い込まれていきました。

「分かってるよっ」

マイラはそれを見届ける事無くジャックの後を追いました。二人が去った後に兵士達が到着すると口々に叫びながら木々を切りつけ始めました。


 マイティは二人を担いだまま走りその間も鼻を動かし耳を澄ましました。やがてずいぶんとメリーガーデンから離れた所まで着くとやっと二人を下ろしました。

「これくらい離れれば大丈夫だろう」

マイティの毛に無数の汗が浮かんでいました。ティアンは自分の腰につけていた皮袋をマイティに差し出し、マイティはそれを受け取ると中の水をごくごくと飲みました。

「ジャックとマイラ、大丈夫かしら」

リールは今来た方向を見つめながら言いました。

「ティアンありがとう。気が利くな、本当に、君は」

皮袋をティアンに返し、そっとティアンの頭をマイティのふわふわの手が撫でました。嬉しそうにティアンは笑うと皮袋を腰につけようと下を向きました。その時でした。マイティは手のひらをまっすぐに伸ばしてティアンの首の辺りを力を入れて叩きました。
ドサリ、と何かが倒れる音でリールは二人を見ました。そこには立ったままのマイティと倒れたティアンがいました。


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